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日本でのブームのきっかけはあるツイート

 日本での人気の火付け役の一つとなったのは、3月下旬あっという間に数万回RTされたあるバズツイートでした。タイBL4作品を紹介する魅力的な文章に惹かれ、たくさんの人が軽い気持ちで視聴を始め、ドはまりしました(私もその一人です)。

 一度はまると抜け出すことができない世界は「沼」と呼ばれますが、年齢層や性別を問わず多くの人がタイ沼の住人となり、沼の外には伝わらない暗号のようなツイートをくり返し、タイ語の入門テキストをAmazonで在庫切れにするほどの事態を引き起こしています。

「2gether The Series」の1シーン(GMMTV公式ツイッターより)

 私は日本のBL作品は長年愛読してきたものの、タイBLについてはまだいくつかのシリーズしか視聴していないにわかファンに過ぎませんが、そのレベルの高さに圧倒され続けています。練り上げられた脚本、絶妙な表情で魅せる俳優陣の演技。物語のテンポがよく、飽きない作りで、「タイBLは1日2時間まで」などと決めておかないといつまでも観続けてしまい要注意です。

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 細部の演出も凝っているため、視聴者は安心してフィクションの世界に耽溺することができます。しっかりお金と時間、そして情熱をかけて大切につくられたことが分かる作品ばかりなのです。

 この春、私の職場もコロナ禍への対応のためここ数年になく多忙な日々でしたが、激務でヘロヘロになる私を支えてくれたのがタイBLでした。長期戦を強いられる中、上質のエンターテインメントによる気分転換、仕事やコロナのことを忘れられる一時は本当に貴重です。仕事以外の時間はほぼ全て、タイBLを観るか、親しい友人とタイBLについて語るかに費やしました(研究者仲間をふくめ、実にたくさんの友人が同時期にタイBLにはまりました)。

タイBLが描く「受容と変容の物語」

 今後おそらく、日本でもタイBLの人気とマーケットは急速に広がることでしょう。現時点の私はまだ沼の入り口におり、本格的な論考を書ける域には達していません。ただ、この1か月間をタイBLとともに過ごした1人のゲイ男性として、そこで繰り広げられる「受容と変容の物語」について、新鮮な感動とともに書き留めておきたいと思います。

「SOTUS The Series」のシーズン2、「Sotus S The Series」の1シーン(GMMTV公式ツイッターより)

 

 タイBL作品では、一組あるいは複数の男性同士の恋愛が緻密に描かれます(サブプロットとして男女間の恋愛が描かれることもあります)。恋によって人が素直に、大胆になったり、あるいは不器用になったりする、そんな恋愛の機微が脚本の、そして俳優たちの熱演により紡がれていきます。

 しかしタイBLが描くのは、恋愛する当事者たちの心理だけではありません。彼らの周りにいる友人たちや家族、あるいは会社の同僚といった人たちが、男性同士の恋愛をどう受け止め、その受容を通じてどう変化していくかが、とても丁寧に描かれるのです。

 ネタバレにならない程度で書くと、2gether The Seriesではサラワットとタインという主役2名のそれぞれの男友達が、恋愛を見守り、2人の背中を押す様子がコミカルにあるいはシリアスに描かれます。