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低体温症と脳浮腫に

 気が付いたのは、病院で検査が終わった頃だった。医者から、ずいぶん暴れていたと聞かされた。「意識をなくすと誰でも暴れるんですね」と私が言うと、「経験があるの?」と医者。「以前、私の長男が喘息の発作で意識をなくしたことがあったが、その時も暴れました」と言うと、医者は「もう大丈夫ですね」と安心したようだった。

 診断の結果は、低体温症と脳浮腫。その後も意識ははっきりしていたし、外傷もなかったので3日後に退院。警察、消防署、ダム管理事務所へお礼とお詫びに行く。3者からは、テントを張りっぱなしにしていたことと、不安を感じながら無理をしたことが今回の事故につながったと指摘された。そのとおりだと思う。自分のためにも仲間たちのためにも、今後はテントを張りっぱなしにするのは止めようと思う。

 あの事故から2ヵ月。いまだ後遺症に悩まされている。そんな折、突然、つり人社から原稿の依頼。体験談と呼べるものは書けないまでも、同じ釣りを楽しむ仲間に同じ轍を踏ませたくないとの思いからペンを取ったしだい。後遺症に苦しんでほしくないのだ。

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写真はイメージ ©︎iStock.com

後遺症に悩まされる辛さ

 事故直後は両手の指先と両足の膝から下の感覚が鈍い程度だったが、1週間ほど過ぎた頃から指に痛みが出て、指が曲がらなくなった(血行不良が原因らしい)。曲げ伸ばしを始めると関節痛が走る。関節痛には湿布がよいといわれ、新陳代謝を促進させるために1日中皮手袋をしている。指先は少しずつよくなりだしたが、肘、肩、首に痛みが移動しだした。足も少しずつつま先に向かって痺れと痛みが移動している。外見からは異常がないので、病院では治療の方法がないらしい。

 兄と一緒に均整指導員の指導を受けているが、いつ完治するかは不明。兄の肩も単なる脱臼ではなく、神経ごと切れたらしい。医者も、どの程度まで回復するか分からないとのこと。ただし、兄は今のところは肩も肘も少しずつ動くようになっているし、動作に時間は掛かるが、大好きな釣りができるまでに回復している。

 他人は「生きているだけで運がよかった」と言うが、私や兄にとっては、生きているからには好きな釣りがしたい。釣りができなくては生きていることにはならないのである。手が自由に動かなかったり、後遺症に悩まされる毎日ではあまりにも辛い。だからこそ、釣りを楽しむ仲間には同じ思いをしてほしくない。

 氷上の釣りは、常に危険と隣り合わせである。できれば初心者とベテランが同じ場所で釣りをしてほしい。

写真はイメージ ©︎iStock.com

 ちなみにこの事故は、新聞等でも「ワカサギ釣りの兄弟が氷割れ湖に転落」などと報じられたが、釣り人のマナーの悪さを指摘されたくないがために、テントを撤収しに行った挙げ句の事故だったというのはあまり言っていない。事実を知っているのは関係者数人のみだろう。

釣り人の「マジで死ぬかと思った」体験談2

つり人社出版部

つり人社

2019年7月5日 発売