しかし、いまのように教育現場が大混乱している状況下で9月入学に切り替えることは、教育現場のみならず日本社会全体にさらなる混乱を呼ぶことを筆者は懸念する。
教育格差が顕在化するのは学校再開後
まず、いま教育現場で何が起こっているのか?
そもそも今年4月から小中学校では、改訂された学習指導要領下で、教育課程が大きく変わるはずだった。
学校での授業は、これまでの先生から児童・生徒への一方通行の教えだけでなく、生徒同士のプレゼンテーションやディスカッションを取り入れた「主体的・対話的な深い学び」に移行する。また小学校では5年生から英語が必修科目となり、プログラミング学習も本格的に始まる。大学入試もこれまでのセンター試験が廃止されて大学入学共通テストに変わる。
この教育大改革に向けて教育現場では数年前から準備を行ってきたが、コロナによる休校でその出鼻をくじかれている格好だ。
さらにいまでは子どもの学習に無くてはならなくなったオンライン授業だが、全国で端末1台当たりの児童生徒は平均5.4人。「1人1台」を目指すGIGAスクール構想も始まったばかりで、オンラインが学校の授業の代わりになるような状況ではない。しかも「首長は目の前の苦しんでいる住民の支援に目が向いており、財源捻出のためにGIGAスクール構想にストップがかかっているところが少なくない」(教育関係者)という。
そもそもオンライン授業については、大学生であれば自分一人でも出来るだろうが、小中学生では大人の伴走が無ければ難しい。
アメリカで同時多発テロがあった年、ニューヨーク市の子どもの学力が大きく低下したという。休校で学びの場を失って、子どもたちの教育格差はさらに広がっていると思われる。しかしそれが顕在化するのは学校再開後だ。
懸念されるのは子どもの心のケア
そしていま何よりも懸念されるのが、子どもの心のケアだ。
入学や進学したばかりの4月は、新しい友達を作る学校生活で最も楽しい時、「ゴールデンタイム」だった。授業が無くなり勉強の遅れに焦りを感じている子どもや、部活や大会が無くなり悲嘆に暮れている子どももいる。公園で遊んでいて心無い大人にばい菌扱いされた子どももいる。外出自粛で家庭にいる親から暴力を受けて、いまも苦しんでいる子どももいるだろう。学校はこれからこうした子どもの心をケアしていかなければならない。