ある文科相経験者はこう語った。
「これまでの秋入学の議論は7か月早めるという議論だった。今回は5か月遅くするという議論だ」
子どもにとっては大きな問題だが、こうした詰めの議論はいま行われているようには見えない。
9月入学のデメリットに社会は耐えられるか?
では次に今年9月入学を導入した場合のデメリットをシミュレーションする。
1)待機児童の急増
小学校の入学が後ろ倒しとなることで、来年小学校に入学予定の年長の児童、およそ100万人が5カ月間、幼稚園か保育園に通い続けなければいけない。これに伴い、新たな幼児の受入れは難しくなり、その分の待機児童が増加し、その間シングルや共働きの家庭は立ち行かなくなる。
2)児童生徒の学年の分断
学年を構成する児童生徒の誕生月を9月からにすると、現在の学年を分断することとなる。つまりこれまで同期だった児童生徒の学年が2つに分かれることになる。
3)新入社員ゼロ
学生が9月入学となれば卒業は7月前後。企業の新入社員は来年4月から数か月間いなくなる。
4)学校年間計画見直し
学校現場は行事の時期や授業計画など大幅な見直しが求められる。
また、国や自治体では9月までに、以下の課題をクリアする必要がある。
1)法律の改正(学校教育法など)
2)追加で発生する約半年分の学費や生活費などの家庭・学生への補償
3)各自治体の条例・規則・通達の変更やシステムの改定
4)会計年度を見直さない場合、国や自治体で予算・会計年度とズレが生じることによる事務的な課題
コロナがいつ収束するか不明な状況の中、日本は間もなく景気後退局面に突入するだろう。多くの企業倒産が起こり、失業者や困窮家庭が急増する可能性は高い。こうした状況が予想される中で、さらに上記のような負担が増えることに、日本の社会、企業、学校、家庭は果たして耐えられるのだろうか。
いま求められるのは子どもの学力保障と心のケア
29日の衆議院予算委員会で安倍首相は、9月入学について「これくらい大きな変化があるなかで、前広に様々な選択肢を検討していきたいと考えております」と述べ、9月入学に向けて一歩踏み込んだ。