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ジェンダーを逆手にとった「ホスト部」の軽やかさ

 既存作品もそれぞれ大好きだったうえで、私にとっては、ジェンダーの撹乱で「男らしさ」「女らしさ」を相対化しつつも、最終的に恋愛が実るうえで「本来の性別に戻る」ことが強調されてしまう話運びよりも、ある意味では極めていい加減にジェンダーを逆手にとっている「ホスト部」の軽やかさが、とても救いになっていた。もちろん、自分が「ホスト部」を読んだタイミングが、自分の自意識形成の過程とぴったり合ったのもあるだろう。当時そこまで意識していたわけではなかったのだが、ハルヒこそが、世間と、それまで読んだ少女漫画によって無意識に培われていた「外面も内面もかわいくて一生懸命な女の子」像への憧れと、憧れることによる重荷を、だんだんと浄化してくれたのだと思う。まあその代わり、「身なりに気を使ってなくてもとにかくイケメンに囲まれてちやほやされたい」というしょうもない願望が発生したのだが……。

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 同作のコンセプト全体を「神回」と言い切りたい気持ちもあるが、もう少し本特集にあわせて紹介したいのは、連載中に放送されたアニメ「ホスト部」の最終回だ。

アニメ版の「オリジナルエンディング」

 私と同じようなひねくれたオタク女子の心をつかんだのか、連載開始後すぐ人気の出た「ホスト部」は、無事に巻を重ね、2006年に全26話のアニメが放送されることとなった。ハルヒ役は坂本真綾、環役は宮野真守、そして制作スタジオは『鋼の錬金術師』『僕のヒーローアカデミア』などでも知られるボンズという、非常に豪華なアニメ化で、構成・作画・演技のクオリティ、全てが素晴らしく、毎週本当に楽しみに観ることができた。いまだにオープニングテーマの「桜キッス」、エンディングテーマの「疾走」も口ずさめるレベルに愛している。

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桜蘭高校ホスト部アニメファンブック

 とはいえ、やはり原作ファンにとって懸念だったのが、「最終回」の描き方だ。少女漫画はだいたい、原作がクライマックスを迎えていない中でアニメ化され、原作の展開をどこかで追い越してしまう。少年漫画と違って「アニメは原作のこの戦いでとりあえず区切り」みたいなこともしづらいので、アニメ化の際は必ずオリジナルのエンディングを生み出さねばならず、そこに制作サイドの技量が出る。過去好きだった作品のアニメ化があまりピンと来なかったことも多く、「ホスト部」についてもかなり警戒していたのだが、ボンズが描いた第26話 は、ファンの原作愛をしっかりとすくいとる、リスペクトと独創性にあふれたものだった。