「女の子も王子様になれる」というメッセージ
アニメのオリジナルエンディングの内容はこうだ。
ホスト部では天真爛漫なキングとしてふるまう部長の須王環だが、実は彼は、正妻ではなかったフランス人の母のもとに生まれ、母から引き離されて日本に呼ばれ、跡取りになったという事情を持っていた。そんな彼のもとに、須王家の実質的権力者である祖母の差し金で、フランス有数の名家トネール家の令嬢が現れ、彼に婚姻を迫る。母の幸せ、ホスト部メンバーたちのことを考えた環は、ハルヒや仲間への気持ちをおさえて、彼女の提案に応じ、ホスト部を解散してフランスへと発つことに。年に一度の文化祭で大忙しの中、真実を知ったハルヒは、ホスト部の面々の協力を得て、ひとり馬車を駆って、環とエクレールが乗ったスポーツカーに追いつく。「戻ってきてほしい」「みんなホスト部が好きなんです」叫ぶハルヒに、心ゆれながらも踏み出せない環だったが、自分に手を差し出した結果バランスを崩して馬車から放り出されたハルヒを見て、思わず自分もハルヒに向かってジャンプ。ハルヒを抱きしめて、二人で川へと落下する。
「家にしばられた婚姻」というTHE・メロドラマな要素を取り入れながらも、それに振り回されるのは、女であるハルヒではなく、男の環。そして、「とらわれの姫君」となった環を助けたいと願い、行動するのは、ハルヒ……だけではなくて、ホスト部のメンバー全員。最終的には、ハルヒ側からの働きかけだけでなく、環自身が動いて、ハルヒとメンバーとの関係、自分の人生を選びとるというのが、このエンディングの構造だ。そこに盛り込まれた「女の子も王子様になれる」「男の子たちの中で、対等な仲間にもなれる」「誰かが救われるためには、最後は結局本人が選択しなければならない」というメッセージは、とても新鮮で力強くて、かつ、原作が当時ふんわりと内包していた魅力を本質的に汲み取って伝えるものだった。まだ原作ではそこまで進展していなかった環、ハルヒの関係を、恋愛に収斂させなかったのもよかった。
このアニメ「ホスト部」最終回まで観たからこそ、私は、ハルヒという存在に、ここまでエンパワメントされたのだろうし、エンパワメントされたからこそ、世間のしがらみにとらわれない格好や暮らしをしていたいと心から思える、30歳の私がいるのだと思っている。まだ「エンパワメント」も「フェミニズム」も聞かないような、2006年のことだった。