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シカ、イノシシ……夜は何かしら動物に遭遇する

 ただでさえ忙しいのに、夜になると動物が線路内に侵入してくるので、運転士は気の休まる暇がないという。

「夜の瀬野八はシカやイノシシなど何かしら動物に遭遇します。列車が近づいて逃げてくれればいいのですが、逃げてくれないことも多いんです。シカは驚くとジッと硬直してしまうし、イノシシは機関車に向かって突っ込んできたりする(苦笑)」

 と坂林さん。

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 山田さんによると、シカなどは鉄分を摂取する目的があるようで、レールを舐めにやってくるらしい。

 時には正体不明の生命体と接触することもあり、そんな時は列車を停めて安全確認の作業をしなければならない。真っ暗な夜の山間部で、懐中電灯を頼りに「接触した相手の正体」を確認する作業は、あまり愉快な仕事ではない。

 ちなみに「登り」で一番苦労するのは、車輪の空転だという。

「雨や雪などの気象条件も多少は関係しますが、一番厄介なのは“落ち葉”です。ちょうど今くらい(12月)は落ち葉や枯れ葉がレールの上に被さり、それを踏むと空転しやすい。お客様の大切な荷物を運んでいるので、貨車に余計な動揺を与えないように注意もしなければなりません。力任せに押せばいいというわけでもないので気を遣います」(加川さん)

 聞いてみないとわからない苦労が多いのだ。

 線路際に「曲」とか「セクションクリア4」などと書かれた標識が繰り返し登場する。どういう意味なのかあとで教えてもらおうと思ったが聞き忘れた。「曲」は「この先カーブあり」かな、とも思ったが、それにしてはカーブの真ん中あたりにあったりもする。およそ凡人の想像の域を超えた深い意味があるに違いない。

登りと同じ13分で「瀬野八」を下り終える

 15時56分、瀬野駅を時速45キロで通過。

 13分かけて登った「瀬野八」を、帰りも同じ時間をかけて下ってきたことになる。これは途中の徐行区間のせいだろう。

麓の瀬野駅は開けた住宅地にある

 瀬野駅を過ぎると住宅地の中を走るようになる。下り坂ではあるものの、勾配はかなりゆるやかになったようだ。

 正面から西日を浴びながら走る。

夕方の運転台は西日がまぶしい

 16時12分。中野東駅の手前あたりから信号機が「黄色」を示すようになった。西条駅を我々より5分早く出た下り普通電車岩国行きに接近しているのだろう。

 時速25キロまで落としてゆっくり進行する。貨物列車は一度停まると、再び走り出すのに大きな動力を伴う。運転士としてはなるべくなら列車を停めず、走れる限りはゆっくり走りたい、という意識が働くのだそうだ。

 横須賀第二踏切をゆっくり通過。線路際で少年がカメラを構えていた。

列車は貨物専用線へ。時速80キロで快走

 この先の海田市駅から貨物線に入るので、先行の旅客列車を気にする必要がなくなる。

 安芸中野過ぎの新幹線の高架下手前から速度を上げ、時速80キロで快走し出した。

 海田市駅の手前で左から呉線の線路が合流し、突如として大所帯となった。新婚家庭に子どもが生まれ、そこに親戚が転がり込んできたような賑やかさだ。我々はここから始まる貨物線へと進入していく。