NHK「ローザンヌ国際バレエコンクール」などに出演、その明晰なバレエ解説で注目される山本さんは英国の名門バーミンガム・ロイヤル・バレエ団(BRB)の元ファースト・ソリストだ。退団、帰国後は演出、振付、レッスンなどで日本のバレエ界を盛り立て、バレエと観客を繋ぐ活動を続けている。このたび初の著書『英国バレエの世界』(世界文化社)を上梓した。

©小林秀銀

「本を出したいという思いはずっとありました。スターダンサーであれば自伝だろうし、舞台芸術の研究者であれば専門書になるでしょう。でも僕はバレエをよく知らない人でも手に取り易いものにしたかったし、踊り手としてだけでなく、観客として自分が考えてきたことも盛り込みたかった。本を読んでもらうことで、これから一緒にバレエを楽しんでいける仲間を増やしたかったんです。そんな折ちょうど出版のお声がけをいただいて。舞踊評論家の長野由紀さんにもお手伝いいただき、出来上がった一冊です」

 本書は、ルイ14世の宮廷に遡るバレエ史、「白鳥の湖」「眠れる森の美女」「くるみ割り人形」の三大バレエを始めとする演目紹介、名ダンサーや振付家列伝と、バレエのあらゆる側面に目配りが利いている。そして全てが「英国バレエ」との関係において、山本さんの審美眼を通して語られるので、所謂バレエ入門書とは一線を画す濃さがある。

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 愛媛県今治市出身。小学校低学年でバレエを始め、「こうべ全国洋舞コンクール」で優勝するなど頭角を現した。

「英国の文化が好きで、子供の頃から憧れていたんです。『ロミオとジュリエット』など演劇性豊かな英国バレエにも惹かれるようになり、高1でロンドンのロイヤル・バレエ・スクールに入学しました」

 卒業後、現代バレエの振付家で当時のBRB芸術監督デイヴィッド・ビントリーに誘われて2000年に入団、以後10年間、年間100回超の公演で踊った。

「デイヴィッドはダンサーへの技術的・芸術的要求水準が非常に高く、大変な目に遭ったこともあるのですが(笑)、心がとても優しくて、エイズで亡くなった友人に捧げる作品『ダンス・ハウス』で同性愛者の尊厳を守ろうとしたり、『ペンギン・カフェ』で環境問題をテーマにしたりと、世の中を良くしていきたい、という気持ちが強い人です。多くを語らないタイプで、彼の下で働いていた時は気付かなかったのですが(笑)、芸術は、根っこのところは人間性であることを学んだ気がします」

 新型コロナで山本さんの今年の予定は大きく変わった。

「劇場にもスタジオにも行けなくなり、時間がたっぷり出来たので、今、日本のバレエの強さ、魅力とはなんだろうと考えています。その一つは、多様性かもしれません。新国立劇場バレエ団にしても、東京バレエ団にしても、イギリス、ドイツ、フランス、ロシアと、驚くほど色々な国で学び踊ってきた日本人ダンサーが集まっています。他の国のバレエ団にはない特色です。いずれ日本のバレエを海外に紹介する仕事もしたいですね」

やまもとこうすけ/ロイヤル・バレエ・スクール卒業後、バーミンガム・ロイヤル・バレエに入団、2010年退団。外出自粛中、休団中ダンサーのためオンラインレッスンを行った。

英国バレエの世界

山本 康介

世界文化社

2020年3月19日 発売