「どうやら新たな被害者がいるらしい……」

 2002年3月29日、松永太(逮捕時40)と緒方純子(逮捕時40)が監禁致傷罪(逮捕・監禁致死傷罪)で起訴されたのと時を同じくして、そうした話が一部の記者の間で持ち上がった。

高窓から飛び降りて重症を負った女性

 それは県警担当記者が、松永と緒方の再逮捕について捜査関係者に取材するなかで出てきた。内容は、ふたりと関係のある女性について、同年3月15日に福岡県警小倉北署が、北九州市八幡東区の病院に入院歴の照会を行ったというもの。その女性は1997年3月中旬に「ベランダから落ちた」として救急搬送されていた。

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 この情報が出る前は、次に考えられる松永と緒方の処遇について、保護された双子の男児の母親である田岡真由美さん(仮名、当時37)への、詐欺容疑での再逮捕が有力視されていた。しかし、彼女の供述に変遷が多いことを理由に、検察が立件に難色を示しており、以前よりもトーンダウンしていた。

 やがて、この「新たな被害者」が、北九州市小倉南区のアパートから逃げ出した原武裕子さん(仮名、当時41)であることが判明する。とはいえ、彼女が肺挫傷などの重傷を負って、約4カ月間の入院をしていた事実まではごく一部のメディアが掴んでいたものの、具体的にどのような被害に遭ったのかという情報は、どこも得ることができなかった。

 そんななか捜査に急展開が生じる。4月4日に福岡県警が、松永と緒方を原武裕子さんに対する監禁致傷容疑で再逮捕したのだ。

『朝日新聞』2002年4月5日付朝刊より

 その内容は、〈両容疑者は共謀し、96年12月末ごろから97年3月中旬ごろまでの間、当時35歳の独身女性が借りていた(北九州)市内のアパート2階にこの女性を監禁。電気コードに金属製クリップを付けた道具で体に通電するなどの暴行を連日のように繰り返し、命の危険を感じた女性が夜、すきをみて高窓から飛び降りた際、腰の骨が折れるなど約4カ月の重傷を負わせた疑い〉(2002年4月5日付『朝日新聞』朝刊)というものだった。