「今回ある程度うたわせないと」「最初から殺人でガンガンいく」
再々逮捕が執行された時点で、すでに2件の監禁致傷罪で起訴されている松永と緒方の初公判が、福岡地裁小倉支部で6月3日に開かれることが決まっていた。ふたりの身柄は起訴後も松永が小倉北署、緒方が門司署にあったが、それにも限度があり、いずれは拘置所に移さなければならない。捜査本部は再々逮捕による勾留で署内の留置場に留め置くことができるうちに、彼らから殺人についての自供を引き出したいと考えていたようだ。県警担当記者の夜回りに、捜査員は次のように答えている。
「(勾留期限の)20日間がいよいよヤマ場。取調官もかなり疲れているが、上から相当のプレッシャーを受けているようだ。もう、(取り調べは)最初から殺人でガンガンいくことになると思う。地検サイドから(殺人の立件については)『8月までは待つ』と期限が決められているし、今回の逮捕である程度までうたわせないと、次の逮捕は本当に殺人でいくしかないだろうから……。松永は雑談には応じているし、精神的にも安定している。そういう点で、(捜査)本部はやっぱり落ちるとしたら緒方の方だと見ている。緒方は本当に完黙で、雑談にもまったく応じていない。かなり緊張しているようだから、その糸でもぷっつり切れたら話し出すんじゃないか、と」
5月21日、捜査本部は福岡県瀬高町にある、松永の両親が住む家を家宅捜索した。捜索の容疑は再々逮捕と同じ「詐欺・強盗」で、松永の両親は事件発覚後、約1カ月間家から離れていたが、4月下旬に戻ってきていた。
約10名による捜索の結果、強盗容疑で使用されたと見られる電気コード、結婚詐欺のマニュアル本、松永の通帳やその他関係書類などが押収されている。
初公判の期日が迫るなか、ふたりの取り調べに目立った進展は見られなかった。捜査員が語るのは、次のわずかな変化のみである。
「松永はかなりビクビクしているようだ。緒方がなにか喋っていないか、かなり気にしている。一方の緒方は依然として完黙。ただ、けっこう疲労の色が見え始めていると聞く」
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この凶悪事件をめぐる連載(一部公開終了した記事を含む)は、発覚の2日後から20年にわたって取材を続けてきたノンフィクションライターの小野一光氏による『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』(文藝春秋)に収められています。