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視聴者の欲望は止められるのか? テラスハウスとワイドショーの共通点

2020/05/29
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AKB総選挙、トランプ大統領……すでに公私は混同している

 太平洋の向こう側ではハリウッド映画俳優のレーガンやリアリティ番組『アプレンティス』で人気を博したトランプが大統領になっており、日本でも同様にタレントとして知名度を確立して政治家に転身した人間は多数存在する。AKBグループの総選挙はまさに公的なシステムを私的な情念の換金システムでハックしたものだ。 

 公と私の境界が蒸発し、公的な政治や経済の領域で活躍している人間が私的な部分を商品にすることでその力を得たように見えるとき、一部の若者が「演じない自分を演じる」労働をし自分のプライベートを切り売りすることで力を得ようとするのは、安易かもしれないが自然なことなのだろう。 

2018年のAKB48選抜総選挙で1位になった松井珠理奈 ©時事通信社

 今回の『テラスハウス』事件ではSNSにおける匿名のユーザーの中傷や罵倒も問題化された。SNSの問題はここまで論じてきた映像産業が視聴者の欲望に奉仕し快楽を提供し利益を生むというモデルと独立した問題ではなく、両者は車の両輪のように作用している。つまり映像産業はSNSに感情を爆発させるための火種を提供し、SNSでの拡散を通じて映像産業は商品となる番組を宣伝するのだ。 

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 特定の個人に対する暴力的な中傷や罵倒を抑えるための措置は必要だが、とはいえSNSに何らかの規制を施したとしてもネットユーザーたちはその規制をかいくぐって隠語を発達させるだろう。その意味で、やはり究極的には、私たちが自身の欲望というものをどう考えるかが重要なのだ。 

欲望とどう折り合いをつけるか? 

 リアリティ番組に向けられる欲望というものをどう取り扱うかという点に関して、ヘンリー・ジェンキンスは面白い事例を取り上げているのでそれを紹介して終わろう。ジェンキンスはリアリティ番組である『サバイバー』の二次創作小説を執筆するファンに注目した。 

『サバイバー』では毎週何人かの参加者が投票で番組から追い出されていき、最終的に残った一人が大金を手にするという番組である。『テラスハウス』の木村花氏がヒールとして演出されていたようにテレビ放送では編集の意図が加わるので、『サバイバー』参加者たちも必ずしも放送での自分の描かれ方に満足していなかった。 

「SURVIVOR: COOK ISLANDS」の出演者たち ©Getty

 あるファンの二次創作小説は、テレビ番組の中では十分注目されなかった参加者の感情の起伏を彼らの立場にかなり寄り添った形で丁寧に掘り下げて描いた。その結果、この二次創作小説は『サバイバー』参加者たちの間でも人気を博し、作者に自分の『サバイバー』での体験を直接話し自分のことを小説に書いてもらおうとする番組参加者すら現れたのだ。