“アート集団”チームラボとの邂逅
「DJをやっていた時から、“オーディエンスとの関係性”は常に考えていたんです。独りよがりの曲を流していても全然盛り上がらないし、流行りの曲じゃ個性がなくなる。やっぱり個性を出しながらも、共感してそれを共有してもらうことが大事だと思うんです。旅館経営も作曲のように、人だったり料理だったり庭だったり、いろんなパートを上手く構成して魅せることが重要。本当にクリエイティブな仕事だと思います」
そんな考えを持っていた小原は、チームラボによる作品『秩序はなくともピースは成り立つ』の存在を知る。
「人や動物が演奏したり踊ったりしているところに鑑賞者が近づくと、それに気付き演奏や踊りをやめたり、リアクションをしたりするインタラクティブな作品でした。その作品を見て、3Dホログラムで立体になる2次元の蒔絵の世界や鳥獣を日本庭園に表現することで、子供も大人も楽しめるアート空間になるのではないかと」
デジタル技術をそのまま使うのではなく、長い時間軸の中の歴史や文化を取り込むことで、世界をアップデートしさらに新たな魅力を付加する。DJならではの“客を楽しませるため”の想像力でチームラボにヒントを得た小原は、持ち前の行動力でコラボを実現させる。先祖から受け継いだ遺産を今日的なものに再生させる、御船山2.0の誕生だった。
「チームラボ代表の猪子さんが『日本には素晴らしい自然や歴史をもつ場所、特異な文化を残す場所が多数ある。そこに新たな価値を付加し拡張することで、その空間をより魅了するものにできるかもしれない』と言ってくれたのを覚えています。
チームラボと組んだ1回目の展覧会では、池全面にプロジェクションし、庭全体を演出しました。竹灯篭や星や月まであって、それらを高台から見えるようにしたのです。世界観は、星々をも取り込んだアート。それを鑑賞したみなさまが、その感動を次々とSNSにアップしてくださって。それを見た時に、こちらの想いが伝わっているのがすごく嬉しかったです」
そして、「五感で楽しむ」究極のサウナへ
家業承継から15年余。ようやく自分の理想とする旅館の形を見出しつつあった小原は、満を持してサウナ開発に乗り出す。そのサウナは今までに見た事の無いものであった。
「御船山のお庭には奈良時代の仏僧・行基が彫った五百羅漢像というのがあるんですが、実は、現存する数少ない古代サウナ『塚原のからふろ』(香川)も1300年余前に庶民の病を治すことを目的として、行基によって作られたそうなんです。すごく運命的なものを感じました。
確かに温泉旅館というのは湯治場になりうると思うんです。疲労回復の効果がある温泉に入ってサウナでくつろいだ後の、ご飯って本当に美味しいんです。それに、美しいお庭や展示してあるチームラボの作品を見れば美的感覚も研ぎ澄まされていく。滞在という長い時間軸の中でのあらゆる体験によって、幸せな気持ちになれる――。これを実現できる温泉旅館こそが“現代湯治”すなわち、社会の中で豊かさや癒しの新たなハブになっていくと僕は思ってるんですよ」