2002年7月1日、それまで福岡県警小倉北署に勾留されていた松永太と、同門司署に勾留されていた緒方純子の身柄が、福岡拘置所小倉拘置支所に移された。
7月31日には第2回公判が開かれる予定で、これまでに彼らが起訴された3件の事件について、罪状認否と冒頭陳述が行われることになっている。
すでに殺人容疑での家宅捜索は実施されていたが、逮捕状を請求する段階には至っておらず、次回の裁判までの間には、新たな容疑での再逮捕はないと予想されていた。
そして第2回公判の当日。私は午後3時から初公判と同じ福岡地裁小倉支部の第204号法廷で開かれた裁判を傍聴した。
「私は関西弁を使ったりしません」
ここではまず、前回の初公判後である6月7日に起訴された、原武裕子さん(仮名、当時41)への詐欺・強盗罪の起訴状が検察官によって読み上げられた。
その後、裁判長が黙秘権について説明し、「わかりましたか?」と尋ねると、Tシャツ姿の松永は「はい」と大声で答え、ワンピース姿の緒方は無言で頭を下げる。
そこで裁判長がまず松永に対し、3件の起訴状に対する認否を1件ずつ分けて問いかけると、彼は3件について毎回「黙秘します」と声を上げた。次の緒方も同じで、やや小さな声ですべての質問に「黙秘します」と言い、最後に「私は関西弁を使ったりしません。ほかに述べることはないです」と付け加えた。
これは検察官の朗読した起訴状のなかに、松永の姉になりすました緒方の発言として「ぜんぶ弟に任せとったらええんよ」との一節があり、言い回しが関西弁のアクセントだったことに反発したもの。その発言から、緒方の向こう意気の強さが窺える。
清美さんに対する監禁致傷罪について
このあと弁護側の意見陳述になった。最初は18歳になったばかりの少女・広田清美さん(仮名)に対する監禁致傷罪について。
「(起訴状のなかでの、以下同)〈監禁しようと企て〉の部分については、否認する。
〈同女に対し、『あんたがお父さんを殺したやろ。』『今度逃げたら、お父さんのところに連れて行く。簡単なことなんぞ。』『逃げても探偵を使って探し出す。見付けたら打ち殺す。』などと申し向け〉の部分は否認する。
上記脅迫を除く公訴事実記載の暴行、脅迫の外形的事実については認める。
〈よって、同年2月15日午前5時ころから同年3月6日午前6時ころまでの間、上記一連の暴行及び脅迫により、同女が同所から脱出することを著しく困難にして同女を不法に監禁し〉については、甲女(清美さん)は自己の意思で監禁場所とされるマンションに戻ったのであり、上記期間中も自己の意思で自由に行動できたのであるから、〈監禁〉にはあたらない。
甲女が、公訴事実記載の傷害を負った事実は認める。
以上から、被告人両名には監禁の故意もないこと、監禁の事実もないこと、公訴事実記載の暴行、脅迫は監禁の手段たる暴行・脅迫ではないこと等から、監禁致傷罪は成立せず、傷害罪が成立するのみである」