3年前、専業主婦だったブローレンヂ智世さんは、男性の体型でもかわいく着られるファッションブランド『blurorange/ブローレンヂ』を立ち上げた。今年上梓した『ワンピースで世界を変える! 専業主婦が東大安田講堂でオリジナルブランドのファッションショーを開くまで』(創元社、1400円+税)では、その軌跡を綴っている。
「子供の頃から女性や男性という枠組みに抵抗があったんです。小さい頃の遊び相手は男の子ばかりだったし、ミニ四駆で遊んだり山を探検したりするのが好きで、中学に入った時、制服でスカートを穿かなければならないのも嫌でした。周りの子たちが次第に、女子らしい、男子らしい振る舞いをしていくのにもモヤモヤして、しんどかった。でも、性格や行動は性別とは関係ないものなんだ、と気づき、スカートを穿いたりメイクをしたりすることにも抵抗がなくなっていきました」
高校卒業後、大阪で就職し、紳士服オーダースーツの営業販売員になった。
「ひどいブラック企業でボロボロになりました。半年で退職し、アパレルの販売員をやったり、キャバクラに勤めたり。そこで見えてきたのは、在庫が余っていても新商品を投入せざるを得ないアパレル業界の矛盾や、身体のラインが出る服を着て仕草を女らしくしたら急に『女』として扱われ、その一方で『女は黙ってろ』的な扱いを受けたりする現実。『私』という人間ではなく、『女』という記号で見られている感じがしました」
その後、23歳の時に結婚し、家庭に入る。
「でも、家事だけの毎日に物足りなさと不安を感じるようになりました。その頃、友人たちから離婚の相談をされることもあって、なんでこんなに男女は分かり合えないんだろう、というところから心理学に興味を持ち、猛勉強して社会人入試で関西大学に入学しました。卒業後は大学院で認知心理学を専攻して、錯視(目の錯覚)を研究しようと思っていたのですが、落ちてしまった。その時ゼミの先生に、『君は人とコミュニケーションを取ったり、クリエイティブなことをしたりする方が向いている』と言われて。もともとハンドメイドが好きで、自分自身そう感じていたところもあったので、『それなら服を作ろう!』と思いました。研究していた『錯視』を生かした服を作りたかったんです。男性服を女性がアレンジして着ることはあっても、既存の女性服を男性が着こなすことは難しい。肩幅や背中の厚みがあるためです。そこで、男性が着てもごつく見えないような女性服を、錯覚を使って作ることはできないか、と考えました」
だが、製作に至るまでには多くの困難があった。
「最も大変だったのは縫製工場探しです。服作りは、女性/男性で専門的に分かれているんです。だから『男性も着られる女性服を作りたい』と言っても、門前払いされることが多くて。100件ほどあたってようやく、メンズのトルソーで型起こししたらいいんちゃう、と言ってくれる工場が現れて、なんとか作れることになりました」
しかし、ブランドを立ち上げたものの、最初の2カ月間は売上がゼロだったという。
「初めて売れた時は飛び上がるほど嬉しかった。『大好きな一着です』とメッセージをいただいた時は涙が出ました」
顧客層は様々で、トランスジェンダーだけでなく、趣味で土日だけ女装する人や、肩幅が広いアスリート女性などもいる。ブランドのキャッチコピーは「ジェンダーフリーのかわいいお洋服」だ。
「道端の花を見て綺麗だなと思うことに性別が関係ないように、ファッションも男女関係なく楽しめる世界を作りたいと思っています」
今年10月にはカナダのバンクーバーで行われるファッションショーに参加する予定だ。
blurorangeともよ/1986年、長崎県生まれ。25歳のとき関西大学入学。心理学専修を卒業後、2017年に「blurorange」を立ち上げる。18年には東大安田講堂でファッションショーを行った。