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 大変な経験をされてきた姜順愛さんですが、素顔は明るくてユニークなハルモニでした。ある時、私は来日した彼女と鳥取に向かいました。すると、いきなり目が宙に浮き始めて、身体が震え出したのです。私が「どうしたの?」と聞くと、「か、神様が降りてきた!」というのです。 

 実は姜順愛さんはムーダンを仕事とする霊能者だったのです。ムーダンとは、日本で言えば霊媒師のようなもので、姜順愛さんは死者の口寄せや、占いをして生計を立てていました。彼女がムーダンであることは、元慰安婦や支援者の間では有名な話でした。 

挺対協のハルモニへの仕打ち

 当時、挺対協の代表だった尹貞玉氏に勝山泰佑さんの写真集(『海渡る恨』)を見せたことがあります。同写真集には姜順愛さんが祭壇の前で話をしている一枚があります。 

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祭壇の前で話をする姜順愛ハルモニ ©︎勝山泰佑

 そのページを見た尹貞玉氏はこう驚いたのです。 

「この人ムーダンをやっているの! 占いが出来るのかしら?」 

 驚きました。挺対協は元慰安婦のことを何も知らないのです。彼女らがどのように生活をしているかについて全く関心がないんだな、と私は思いました。 

 姜順愛さんが亡くなったとき、挺対協が葬儀を取り仕切りました。挺対協に協力的だった金学順さんは立派なお墓を立ててもらっています。ところが遺族会所属の元慰安婦だった姜順愛さんは位牌しか作ってもらえなかった。いまも彼女の位牌は共同安置所に雑然と置かれていると聞きます。 

 姜順愛さんは当事者として慰安婦問題の提起に貢献したハルモニの一人です。それなのに、扱いがあまりに酷すぎる。挺対協のやり方は、本当に誠意がないと私は憤りを覚えました。 

「あなたを入国禁止に」挺対協による災厄

 挺対協による厄災は私にも降りかかってきました。 

 1997年7月初旬のことです。 

 私は所用があって日本・外務省を訪れていました。すると突然、こう言われたのです。 

「先ほど韓国政府から電話がかかってきて、臼杵さんを『入国禁止にすることになった』と伝えられました」 

 目の前にいる外務省・アジア大洋州局地域政策課長は私に向かって淡々とこう告げました。 

 頭の中が真っ白になりました。 

©iStock.com

 私は日韓を行き来しながら、韓国の遺族会を支援する活動を行っていました。東京東京裁判はまだ続いています。親しい元慰安婦のハルモニとも会えなくなる。

 特にアジア女性基金を受け取った七人の元慰安婦たちは、韓国内で激しいバッシングに遭っており心配でした。韓国への入国が禁止されてしまえば、これまで行っていた活動が、大きく制限されることになります。 

「どうしたらいいの?」、思わず心の中で叫びました。