初タイトル戦はフルセットで敗れた屋敷伸之だが、1年もしないうちに再びタイトル戦の舞台に登場した。18歳の夏に迎えた2回目の番勝負は苦しいスタートだったものの、『笑っていいとも!』が好手を見つけるきっかけになったのかもしれない。
インタビュー後編は、高校卒業直後にタイトルを獲得して戸惑ったこと、藤井聡太七段について語ってもらった。
【全2回/#1を読む】
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高校卒業直後、18歳で再びタイトル挑戦
――1989年後期の棋聖戦は敗退しましたが、1990年前期の棋聖戦でも挑戦権を獲得されました。先の五番勝負を終えてからわずか4カ月後のことです。
屋敷 このときは本戦にシードされ、4勝すれば挑戦なのでチャンスはあるのかなと思いました。最後の塚田(泰明八段)先生との将棋は二転三転して、最後はトン死勝ちでしたね。なかなか詰みが見えなくて、少し気づきにくい筋だから塚田先生もうっかりされたと思うんですよ。終盤は苦しい時間が長かったので、挑戦権を意識する時間はなく、最後は勝ってホッとしました。
――2年連続、中原棋聖との五番勝負です。中原棋聖は4月に開幕した名人戦で谷川浩司を破り、2度目の復位で三冠と好調でした。屋敷九段は高校を卒業された直後で18歳でしたね。シリーズにはどのように臨んだのでしょう。
屋敷 2回目なので1回目よりいい将棋を指せればと思ったんですが、1局目(6月18日・神奈川県箱根)と2局目(6月26日・滋賀県長浜)で完敗しましたね。気負いはなくて、力の差で負かされました。
――あとがなくなった3局目(7月5日・山形県天童)で、白星をあげました。
屋敷 シリーズはどうであろうと3連敗は避けたかったので、勝ってホッとしました。中原先生らしく空中戦特有のうまい指し回しで苦しい序盤でしたが、巻き返せてホッとしました。それでも番勝負を勝てる感じはなく、シリーズが長くなればいいなぐらいでしたけど。
『笑っていいとも!』を見ながら、ふと思いついた手
――第3局の逆転につながった手は昼食休憩後に指されましたが、1時間のお昼休みで『笑っていいとも!』を見ている最中に、ふと思いついたそうですね(※当時の新聞のテレビ欄によると、コーナーは「クイズ大ぼけ決定戦!」「鶴瓶の音楽講座」。テレフォンショッキングには、俳優の柴田恭兵さんが出演したという)。