屋敷 じっくり指してきますね。実際に盤を挟んでみると受けが強いと感じました。
――今月8日のヒューリック杯棋聖戦五番勝負第1局、渡辺明棋聖-藤井聡太七段戦は藤井勝ちでした。
屋敷 矢倉のよい将棋でした。難しい中終盤でしたけど、終盤まで惜しみなく時間を使い、渡辺明棋聖の追い込みをかわしきった。勝ち切ったところに価値があります。
――第1局は中盤で攻めずに▲7六歩(71手目)とキズを消したのが渋い手でしたね。
屋敷 将棋のつくりがそういう感じですよね。慌てず騒がず、地に足がついて落ち着いている。あんまり年齢のことをいうのはよくないですが、年に似合わずじっくりしています。
――詰将棋が得意だと、難しい変化でも終盤にさっさと持ち込んで競り合い勝ちを目指すスタイルもあると思うんですが、藤井七段はそういう指し方をしないですよね。
屋敷 すごく丁寧です。よい局面でもじっくり辛抱できるし、勝ちを急ぎません。勝負しないといけないときは勝負しますけど、ゆっくり指して差を拡大していく感じです。派手な順や決めにいく手は見えているんでしょうけど、色んなことを考えたすえに確実に勝ちにいくイメージです。
――これからどんなふうに変わっていくのでしょう。
屋敷 ますますトップレベルの棋士と当たることが増えていくので、また変わっていくかもしれません。
「おかげで私の記録もこうして日の目を見たので(笑)」
――屋敷九段は6月28日(日)の棋聖戦第2局の立ち合いを務められますが、ここで藤井聡七段が勝つと棋聖獲得まであと1勝に迫ります。史上最年少タイトル獲得の記録更新が現実味を帯びてきて、仮に7月21日に行われる第5局で獲得しても18歳0カ月2日で、屋敷九段の18歳6カ月14日を塗り替えます(※藤井聡七段が挑戦中の王位戦七番勝負をフルセットで制した場合も、18歳2カ月10日でやはり更新する)。屋敷九段はどんなふうに感じていますか。
屋敷 いままで若い棋士はたくさん出ていますが、タイトル戦線に絡むまでの棋士はなかなかいませんでした。藤井七段は昨年の王将戦でタイトル挑戦にあと1勝に迫りましたので、記録更新はいずれという感じはしていましたよ。
――塗り替えられるのは仕方ないという気持ちですか?
屋敷 ええ。年間勝率が8割を超えて、棋戦優勝もしていましたし、普通に考えれば時間の問題だと思っていました。でも、いままで30年間も記録に迫られなかったですし、藤井七段のおかげで私の記録もこうして日の目を見たので(笑)、ありがたいと思っています。藤井さんがプロになったときに加藤先生の記録(史上最年少四段)を抜いたと報道されて、そのあとは連勝記録で神谷(広志)先生を抜くかかが話題になって、いろんな棋士の存在や記録が脚光を浴びています。皆さん名誉なことだと思うので、破られて悔しいという気持ちはないと思いますよ。
(【前回】屋敷伸之九段が振り返る“17歳の挑戦”「キツかった和服と高校生活」を読む)