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韓国語の敬語は、「お互いの序列を証明する」身分証明書

 私が肌で感じた韓国語と日本語の敬語表現の差は、それらの方向性が、一方通行なのか、双方通行なのかにあります。韓国では、AがBを尊待すると、BはかならずAを下待します。AとBが尊待し合うことはまずありません。未成年の友だち同士でタメ口を使う(平待し合う)ことはもちろんあります。でも、本当にマブダチでもないかぎり、大人同士で「平」の関係で話し合う、お互いに尊敬語またはタメ口を使い合うことは、そうありません。

 どれだけ些細なことでも、どれだけ下らないことでも、かならずAとB、二人はお互いの序列、上下を決めます。そして、それをお互いに確認し、ある種の釘を打っておくために、序列の低い人は高い人に尊待語を、高い人は低い人に下待語を使います。言わば、韓国語での敬語は、「お互いの序列を証明する」ための、身分証明書のようなものです。これが、少なくとも「実用」の中での、韓国語と日本語の「敬」の本質的な差です。

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 こう書いても、日本の皆さんにはピンと来ないでしょう。参考になればと思って、この問題に関する、専門家の寄稿文を一つ紹介します。著書や論文などで、韓国内の嫌悪(ヒョモ、相手へのヘイト表現)問題を指摘してきた、原州(ウォンジュ)大学の多文化学科キム・ジへ教授が、市民記者として「オーマイニュース」(2009年6月14日)に書いた寄稿文、「バンマル、彼らの身分社会」です。バンマルについては後述しますので、引用部分では普通に「タメ口」に訳しました。

会話の前に自分と相手の「上下」を決める

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<……韓国人は、人に会えば、まず年齢を聞く。言葉遣いをどうすべきかを決めるため、すなわち相手の名前に「氏」を付けるべきか、文章に「です、ます」を付けるべきかを決めるには、年齢を知る必要があるからだ。年齢だけではない。韓国語で相手と会話を始めるには、その前に、相手について知っておかないといけないことが、あまりにも多い。職業、教育水準、結婚したかどうか、親や配偶者の職業、経済的能力、乗っている車の種類、住んでいる街、着ている服、などなど。もちろん、男か女かも会話の前に知っておくべき重要な要素だ。

 職業といっても、韓国では全ての職業に貴賎があるため、その職業において、どれほどの職位にまで登ることが出来た人なのか、その点も知っておかなければならない。それらの項目で、これといって他人より優れたものが無かった場合、その人は、タメ口をきかれなければならない。私が「タメ口でいいですよ」と先にことわっておくことも無くはないが、ほとんどの場合、私にタメ口をきくかどうかは、私に話しかける人が一方的に決める。