本連載でも何度か言及しているが、旧作邦画の映像配信は各映画会社ともに充実しつつある。独自のレーベルを作ってマイナー作品も含めて配信している東映が強い印象だが、実は他社もなかなかのラインナップだ。
東宝も実はそうで、メジャーな大作から比較的マイナーな作品まで取り揃えつつある。
たとえば――これはツイッターでフォロワーの方に教えていただいたことなのだが――「血を吸う」シリーズなどは全作が配信されている。これは、一九七〇年代はじめに作られた山本迪夫監督による、日本では珍しい本格的ゴシックホラーのシリーズ。第一作『血を吸う人形』にはじまり、『血を吸う眼』『血を吸う薔薇』と全三作が作られた。中でも、『~眼』と『~薔薇』は名優・岸田森がドラキュラ的な吸血鬼を演じ、一部でカルト的な人気を得ている。
今回は、シリーズ最終作『血を吸う薔薇』を取り上げる。
洋館などを舞台にした禍々しい世界であるゴシックホラー、しかも主人公であるドラキュラは本来ならルーマニアの貴族。日本を舞台に日本人が演じると、嘘くさかったり安っぽくなったり――という不安を抱く方もいるかもしれない。が、それは全くの杞憂。
山本の演出も岸田の演技も抜群で、無茶にも思える状況がまるで気にならず、作品世界に浸ることができるのだ。
人里離れた八ヶ岳山麓の女学園に教師の白木(黒沢年雄)が赴任してくるところから、物語は始まる。学長(岸田)の暮らす謎めいた洋館に招かれた白木は、奇怪な現象に次々と遭遇することに――。
照明の陰影や鏡の効果により不気味に映し出される、細部まで作り込まれた欧風のセットや調度品の数々。そして岸田の冷たい無表情。序盤からいわくありげな不穏さが漂い、早くも引き込まれる。
この学長が実は吸血鬼で、生き血を求めて女学生たちに襲いかかっていく。蒼ざめて見えるメイクに長い牙をはやし、黒いマントをたなびかせる――そんな異形の者を岸田が怪演。肉付きの薄い面相と細身のスラッとした体型、そしてギラついた眼差しが、血に飢えた狂気の吸血鬼にピッタリだった。
これを派手に盛り上げようとするとリアルさを失い一気にバカバカしくなってしまうところだが、映像は絶えず淡々と薄暗く、それぞれの感情も抑制されている。そのことが、ジワジワと白木たちに迫りくる恐怖を巧みに表現していた。
キワモノの作品ではある。それでも、演出も演者もいい加減な仕事はしていない。そのことが、本作を恐ろしくも美しい佳作たらしめていた。