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地下鉄サリン事件から25年……日本の化学・生物テロ対策にまだ“足りないもの”

『毒 サリン、VX、生物兵器』より #2

note

日本の防衛体制に対する提言

 最後に、日本の状況について私個人の感想を述べてみよう。

 全体的に自衛隊の防衛体制は立派で、国内で起きた化学戦やテロに対しては十分対処できる。私は各国の化学・生物兵器の規模や装備を見学し、研究員とも交流してきたが、日本のそれは決して劣るものではない。もっとも、規模はそれほど大きくないが、防衛の点から見れば、十分な規模だと考える。しかし、生物兵器を使った戦争やテロへの対応は、不十分だろう。日本ではこの事態に対応するのは化学防護部隊であるが、他国に比べて規模が小さく、心もとないのが実情だ。

写真はイメージ ©iStock.com

 しかし、それよりも、一番遅れていると思うのは民間防衛(Civil Defense)だ。見てきたようにスウェーデンのような小さな国でも、いたるところに堅固なNBC対策の要塞や避難所がある。スイスもアルプスの山の中に大きな避難所がいくつもあり、いざNBCで攻撃を受けた場合は市民が中に避難できるようになっている。これに対し、日本は化学・生物兵器で襲われたときに、自衛隊は対応できるものの、民間での防衛はほとんど壊滅的だろう。

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未曽有の事態に備えることの重要性

 立川に国立病院機構災害医療センターという施設がある。ここには化学テロや生物テロに備えて常備薬や救急テント、医療器具などが置いており、私も見学した。中には炭疽菌テロに対しての特効薬であるシプロンや、サリンの特効薬であるパムなどが常備しており、たしかに立派であると感心した。しかし、こういう施設が日本全国で10か所程度は無いといけないだろう。アメリカでは、400㎞ごとに医薬品や救急器具が備蓄されている。すなわち、車で数時間運転すれば、これらの薬や機材を使えるようになっているのだ。やはり、日本はまだまだ民間防衛が足りておらず、今後ますますNBC兵器の重要性が高まってくることを考えると、早急にこれらの防備を整えるべきであろう。

毒 サリン、VX、生物兵器 (角川新書)

アンソニー・トゥー

KADOKAWA

2020年7月10日 発売

地下鉄サリン事件から25年……日本の化学・生物テロ対策にまだ“足りないもの”

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