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“イジりネタ”からブランドへ 

 ムック本「芸人芸人芸人~」には、若手とは言えない30代の芸人も取り上げられていた。この本の影響もあり、せいやは先輩芸人たちから「オレらは第五なの? 第六なの?」などとイジられるようになる。

 これに苦悶の表情でせいやが「いや、違うんですよ!」と弁解するたび、むしろ周囲は面白がって、この話題を振るようになった。つまり、2019年の中盤あたりまでは、先輩芸人が“せいやをイジるネタ”として「お笑い第七世代」が取り上げられていた。

 そこには、「第七世代という言葉など定着するはずもない」という意味合いが暗に含まれていたのだ。

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 しかし、一方で着実に霜降り明星以外の若手芸人が目立ち始めた時期でもあった。

 ネガティブ漫才の宮下草薙、脱力系トリオの四千頭身、ネオパリピ系漫才のEXIT、若手コント職人のかが屋など、個性豊かなコンビやトリオが台頭し、支持を集めるようになっていた。彼らはネタ番組の常連となり、ラジオやネット番組、単独ライブ、雑誌連載など、多方面で存在感を示していく。

四千頭身。左から都築拓紀、後藤拓実、石橋遼大 ©時事通信社

 2019年末になると、単発の番組ではあるものの、12月26日に『宮下草薙のポジティブ学』(フジテレビ系)、12月28日に『EXI怒』(テレビ朝日系)といった冠番組も放送されている。テレビの世界で「お笑い第七世代」というブランドが完全に定着した時期と言えるだろう。

 そして、2020年2月には、『アメトーーク!』(テレビ朝日系)で「僕らビミョーな6.5世代」という企画が組まれるまでになる。中堅に差し掛かった芸人たちが、「人気の第七世代の波に乗れず苦悩している」という構図を露呈して、笑いを誘うようにまでなった。

「第七世代ってどうなの?」

 実はお笑い業界の関係者の間でも、始めのうちは「第七世代ってどうなの?」と疑問視する声が少なくなかった。

 そもそもテレビやラジオといった“体制側”のメディアが仕掛けたキャッチフレーズではなかったからだろう。テレビ関係者は、「第七世代」という言葉は知っていても、番組のメインとして取り上げるのには抵抗があったに違いない。

 その傾向が特に顕著だったのがフジテレビだ。『新しい波』という番組の威信にかかわることでもあった。同番組は、勢いのある若手芸人を集結させ、8年周期で次世代のお笑いスターを発掘することを目的に制作されている。1992年の初回はナインティナイン、極楽とんぼ、よゐこらが注目を浴び、後の長寿番組『めちゃ×2イケてるッ!』へとつながった。

 また、2回目の『新しい波8』では、キングコング、ロバート、ドランクドラゴンらを輩出し、人気番組『はねるのトびら』を生み出している。

 しかし、『新しい波16』の選抜メンバーで制作された『ふくらむスクラム!!』は、半年ほどで打ち切りになった。その中には、現在テレビでブレーク中のかまいたちもいる。「実力派がいるのに、なぜ?」という違和感はあるが、「アイドル的な人気がなかった」と、ただ漠然と解釈するよりほかなかった。

 2009年当時は、まだそこまで広くSNSが普及しておらず、一般視聴者と番組制作サイドで接点を持つ手段もなかった。判断基準は、完全に視聴率だったのだ。