2020年7月16日は将棋史に永遠に刻まれる日付となるだろう。藤井聡太七段が第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第4局で渡辺明棋聖を破り、自身初の八大タイトルを獲得した。
17歳11ヶ月でのタイトル獲得は、これまでの最年少記録だった屋敷伸之九段の18歳6ヶ月を30年ぶりに上回る、史上最年少でのタイトル獲得となった。
「しっかりした将棋をお見せしなければ」
終局後の記者会見で今の気持ちを問われ、
「獲得についてはまだ、あまり実感がないのですが、とてもうれしく思っています。また、これからタイトルホルダーとして、しっかりした将棋をお見せしなければという思いもあります」
と新棋聖は語った。
そして渡辺は、今回のシリーズについて自身のブログで以下のように振り返っている。
〈第1局は▲13角成から一気にスピードアップで「えっ、それで寄ってるの」とか思ってる間に負け、第2局は△31銀で手がありません、と。今回は中盤でピタッと追走されて△86桂で抜き去られる。と、負け方がどれも想像を超えてるので、もうなんなんだろうね、という感じです〉
藤井がピタッと追走している間に……
渡辺と同時に四段昇段を果たし、その後も研究会を共にするなど、付き合いの長い飯島栄治七段は以下のように言う。
「第2局と同じ形を指したのは、その負け方に納得がいっていなかったからじゃないですか」
果たして、渡辺が改良手を用意しており、そして局面をリードする。だが、中盤の▲9五歩という手に対して筆者は違和感を持った。手の善悪というより渡辺らしくないと思ったのだ。代えて▲3四桂と金桂交換をする順があった。はっきりとした実利を得てからの体力勝ちというのが渡辺将棋の勝ちパターンである。飯島七段によると控室の検討でも、▲3四桂のほうがよかったとされていたそうだ。
実戦の▲9五歩というのは、相手の攻め駒に働きかける順で、以下の進行でもその攻め駒を消すことには成功している。ただその瞬間に思わしい順がなかったのが渡辺の誤算だった。藤井がピタッと追走している間に、渡辺の力を発揮しにくい局面へ誘導したのではないかというのが本局に対する印象だ。