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17歳というのは、まだプロを目指して苦闘している時期

 ちなみに、現役棋士169名のうち、「18歳未満で四段昇段を果たした」棋士が何人いるかと数えると26名。よほどの存在でない限り棋士の17歳というのは、まだプロを目指して奨励会で苦闘している時期なのである。昭和時代における最年少タイトル保持者だった中原十六世名人にしても、四段になったのは18歳をわずかに過ぎての時だった。

代表撮影

 その中原は初タイトル獲得後の心境について、以下のように語っている。

「タイトル保持者になった時、棋聖らしい将棋を指さなければいけないのかなと考えて、2ヶ月くらい変だった。意識しすぎて自分らしい将棋を指せなかったが、そんなことを考えている場合ではないと気づいた。大体、棋聖らしい将棋なんてものはなく、自分の将棋を指すしかないのである」

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 中原の初タイトル奪取から2ヵ月間の成績を切り取ってみると4勝3敗。奪取を果たした1968年度の年度初めから奪取に至るまでの成績が16勝4敗だから、数字としては確かに落ちている。だが、そのあとは23勝5敗と勝ちまくって年度を終えた。1968年度の通年成績は43勝12敗の0.782である。以降の中原の実績については、改めて触れる必要がないほど輝かしいものだ。

代表撮影

「今回得た物がいろいろあります」

 タイトルを獲ってから、環境に慣れるまでの期間というのは確かに影響を及ぼすようで、羽生九段にしても初タイトルの竜王を取った1989年度の年間成績は53勝17敗と勝率が7割5分を越しているが、竜王奪取からの2ヵ月は6勝4敗とペースが落ちている。

 もっとも、初タイトルの竜王獲得後の2ヵ月間で7勝1敗とさらに大爆発した渡辺のような棋士もいるが。竜王奪取からひと月ほどたって行われた就位式での「渡辺明らしい将棋を指すしかない」という、当時の日本将棋連盟会長を務めていた中原十六世名人の激励が伝わったのだろうか。

 今回の藤井はどうだろう。環境に変化がないとは言えないが、タイトル獲得前から常に報道陣に囲まれていたような棋士は過去にいなかった。そういう意味では影響はさほどなさそうである。そして、同時並行で行われている王位戦七番勝負の存在も大きい。まずはこちらに集中できるだろうし、周囲もそのような環境を作ると想像できるからである。

提供:日本将棋連盟

「今回得た物がいろいろあります。実力を高めて、成長につなげられるようにしたい。結果としてさらなる活躍ができればと思います」と語った新棋聖が、これからどのような戦いを見せるか注目していきたい。

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