“温浴コンサルタント”という仕事を選んで
霊には憑りつかれないで済んだ太田だが、その後も様々な職業を経験し、コンサルティング会社に入社。数々の施設に携わった後、温浴コンサルタントという仕事に自分の使命を感じ、独立を決意する。ちなみに、“サウナ王”という呼び名は前に勤めていた会社で生まれたものだという。
「以前、報道番組に、『温浴施設の仕掛人』みたいな感じで出演してるんですけど、その時に『社内であだ名あるんですよね』と振られて、『サウナ王って呼ばれてるんです』と返したのが始まりだったと思います。実際に社内で呼ばれてたんですよ。いつも会社からいなくなると、『どうせサウナ行ってんだろ』と言われたり……。まあ、ほんとにサウナに行ってたんですけどね(笑)」
数々の温浴施設を手掛けてきた太田だったが、起業当初はかなり苦労したという。
「独立したての頃はすごく苦労しましたね。前の会社では退職後3年間はコンサル業務をしてはいけないという縛りがあったんです。なので、当面は温浴施設の総支配人をしたりしていました。フロントに立ったり厨房に入ったり風呂掃除をしたり、スタッフの面接採用とトレーニング、取引先との仕入交渉などもすべて私がしていました。店舗の管理業務だけではなく実際にすべての部門で現場スタッフとして働いていましたので、それが今も役立っているんです。結果、いくつもの視点で、売上向上や業務改善などの提案をすることができるようになりました。
例えば飲食のメニュー1つとってもそこへの気遣いってすごく大事なんです。サウナに入ると、汗で体内の塩分が出ていくので、通常より少し塩分濃度を上げる。お子様ランチのおまけを強化すれば、おじいちゃんおばあちゃんが孫を連れてきて、それだけで客単価が上がります。サウナーが気に入るような店を作りつつ、かつファミリーでも来られるような店にしたら苦戦していたお店でも収益が上がり始めたり。すごく細かいようですが、ひとつひとつの積み重ねが、今の私にノウハウとして蓄積されています」
20種類以上の職業経験に裏打ちされたユニークなサウナづくり。自らの理想とするサウナに行きつくまでに、太田は長く険しい道のりをひたすら前に進んできた。そしてその想いがついに結実したのが、「かるまる池袋」である。ここには、太田のこれまでのノウハウがふんだんに盛り込まれている。
池袋で『サウナ4つ・水風呂4つ完備』は決してマニアックではない
「最初はオーナーから『サウナをやりたいから手伝ってもらえないか』という普通の依頼でした。いつも通り『じゃあこういう風なサウナにしましょう』というところから始まったんです。でも、実はサウナづくりの何が大事かって一番はこの段階で。僕がこれまでの経験則で『サウナを4つ入れましょう』とか提案すると、『いや、そんなにいらないから温泉増やさない?』と言われてしまうことが常なんです。でも、『かるまる池袋』のオーナーは違った。僕が『サウナ4つで、水風呂も4つ作りましょう』と提案したら『いいですね』ってあっさりOKしてくれたんです(笑)。そういう方は本当に少ない。ちなみにMADMAXボタンでおなじみの熊本にある温浴施設『湯らっくす』の西生社長も数少ないそんな方ですよ(笑)。
この事業って2年3年で終わる事業じゃなくて、10年20年続いていく事業なんです。しかも1回設備を作っちゃうと、途中で変えるのはすごくお金がかかるから簡単にはできない。だからできるだけベストな状態で造り上げる必要があるんです。最初が本当に肝心なんです」