一番重要なのは、お客さんが来たいと思うような店を造れるかどうか――。中途半端なものを造ってはいけないと熱く語る太田は、「かるまる池袋」のお食事処でのインタビュー中も常に周囲を見渡し、お客への観察を怠らない。
「私はサウナに入っている時も、お客さんはどういうパターンで動くのか、常にどう楽しんでいるかを見ています。サウナづくりにおいて私は自分の趣味や好みよりも、私とは対極にいる一般の人たちの気持ちを優先しています。彼らが何を求めているか。それをずっと観察して、提案しているんです。だから『かるまる池袋』の“サウナ4つ・水風呂4つ”はマニアックに見えて全く違うんです。サウナも水風呂も好みは細分化しています。だから初心者からベテランまで様々なお客様のニーズに対応できるようにしただけなんです。私のようなマニアックなサウナーだけを対象にした施設を造ったらビジネスとしては確実に失敗しますよ(笑)」
漫画はサウナ施設では“キラーコンテンツ”である
太田が温浴施設づくりにおいて大事にしているのはサウナや浴槽などの温浴設備だけではない。サウナやお風呂から出た後の館内での過ごし方に、他の施設との差別化を図る秘密があるという。
「食事や休憩スペースなど数え上げればきりがないんですが、その一つとしてキーになるのが漫画ですね。食事の改善は手間も時間も凄くかかるんですが、漫画はすぐに効果が出やすいんです。実は1万冊の漫画のラインナップも私が選定しています。漫画は戦略上、大変重要なんです。
ライナップが重要で、20代から50代以降までそれぞれの層に対してしっかりとアプローチするものを考えて揃えていかないダメなんです。よく『5000冊置きました! 1万冊置きました!』って売り出している店も見かけますが、ただ置いてもお客さんは呼べない。品揃えだけではなく、陳列方法も重要なんです」
大事なことは細部に宿る。太田の話を聞いていると、確かに様々な職種で体得した客への細かい気遣いが端々に感じられる。漫画の陳列もネットカフェのように出版社ごとにカテゴライズせずに「野球」「サッカー」とジャンルごとで陳列するのが太田流。そうすると、若い人や漫画好きでない人でも手に取りやすく、リピーターを作りやすくなるという。
「漫画が好きじゃなくても野球が好きな人は野球漫画だけは読んだりするんです。大事にしているのはネットカフェに行き慣れていない人達、特に40代以上の漫画は好きだけどネットカフェには行きたくない人達なんですよ。実は男性サウナなのに少女漫画もセレクトしたりとマンガ読みが見つけたら読みたくなるような、細かいニーズにも応えられるようにしています。それがツボに入ると客単価が上がったりするんです。
漫画の力で、週に1回の人が2回来てくれたり、月に1回の人が2~3回来てくれるようになる。漫画は私にとってはお客様の来店頻度を高めるキラーコンテンツなんですね」