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戸高 それはあり得ると思います。20年、30年、どうかすると40年ぐらい経ってから書いているため、記憶と戦後の情報が一緒に頭に入ってしまう。すると、自分の本当の記憶と後で見聞した記憶が入り混じり、実体験のように自分で思い込むこともある。嘘をつく気がなくても、間違いを話してしまうケースはあります。

大木 我々も、後で知った30年前の出来事を、30年前にも知っていたような気持ちになることはありますから。

戸高 そういうところが、歴史史料が伝わるときの危ういところです。

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知られたくない、残したくない事実も残す

戸高 海軍も陸軍もそうですが、自分のいた組織を守ろうとします。ミッドウェイについても、オリジナルの戦闘詳報は長い間出ませんでした。それを澤地久枝さんが頑張って発見しますが、こればかりは、人に知られたくないところが多々あったと思います。

 ミッドウェイ海戦はまさにそうです。旗艦「赤城」の機関が、戦闘の真っ最中に止まります。逃げ回らなければいけないときに何をしているんだ、と戦闘詳報を読んでいて思います。やって来た飛行機を撃墜しているので、アメリカのパイロットがたくさん周りにポチャポチャ泳いで、浮いている。彼らを拾い、情報を取るために船に上げているのです。少なくとも5、6人は拾って情報を取っている。

 ところがその情報が、戦後には一切残らない。それは、その場で拾った人たちを「処分」して帰ってきているからです。こういうこともたくさんあるのでしょう。

大木 駆逐艦でも「処分」したという、下士官の証言がありますね。拾った捕虜をボイラーに突っ込んだと。

戸高 それから重りを付けて海に放り込んだりした。本当に戦争の中の狂気というべき部分です。しかし、そういうことも、きちんと史料に残さないといけません。当然、部分的な勇ましい話ばかりにするわけにはいきませんから。

軍隊の「今」を書き記すということ

大木 陸軍ですが、これも今となればよくできた、当時だからできたのだろうと思う企画があります。「郷土師団特集」です。森松俊夫さんら専門家に、師団史を執筆してもらったのです。具体的には金沢第九師団(森松俊夫)、宇都宮第14師団(高橋文雄元二等陸佐)、久留米第一八師団・菊兵団(牛山才太郎元少佐・当時第一八師団参謀)です。さらに、その師団に所属していた兵隊さん、下士官を集めて実戦談をしてもらいました。『歴史と人物』がもう少し続いていれば、少なくとも常設師団については一通りできたのではないかと思います。

戸高 貴重なシリーズであり、調査記録です。生きている人間との兼ね合いで、そういうことができる時代とできない時代がある。

大木 果たして今、陸上自衛隊にそういう人がいるかどうか。つまり、戦後生まれ、あるいは戦中に子どもで、その後に陸上自衛隊に入った人でフィールドワークをして書く人がいるかどうか。