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2020/08/16

挨拶回りが重要なヤクザ取材

 それでも偏執的な情熱の甲斐あって、これまで何度か貴重な体験をした。御用聞きのようにあちこちを回っている渦中に抗争事件が起きたのだ。私は沖縄を除き、どこの取材でも公共交通機関を使わない。たとえば九州に取材に行く際、飛行機を使えばその組織しか取材できないからだ。フリーの身には能率が悪すぎる。車やバイクを使って目的地に向かい、帰りには中国地方、四国、近畿、名古屋と回り、「なんか変わったことないでしょうか?」と、顔を出す。特別な取材がなくても会うだけなら会ってもらえる。日々の接触が大事なのだ。

 それは同時に、自分の存在をしっかり警察に摑んでもらうためである。車にせよバイクにせよ、事務所に止めてある私の所有車のナンバープレートを照会すれば、取材に来ていることは明白だ。社会部の友人に「警察資料に特定の組織と関係が深すぎるって書かれている」と忠告されたが、御用聞きよろしく頻繁に出入りしているから御用記者と思われるのは心外である。

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 そこになにかしらの癒着と意図があるなら、身元を隠し、新幹線で行く程度の知恵はある。携帯電話だって自分のものは使わない。他人名義のそれはいくらでも西成で売っている。ただし、現行法で他人名義の携帯を使うことは違法だ。暴力団たちはこの罪状で逮捕・起訴されている。

ケンカの掛け合い

 ともかく……いくら効率が悪くても、接触しない限り取材は出来ない。宝くじが当たることを夢みて、せっせと通い詰めるしかない。その日もいつも通り、他団体の取材の帰り道だった。事務所で雑談していたら、事務所がバタバタしだしたので、すぐなにかあったと分かった。

 電話に聞き耳を立てていたら、邪魔をしていた組織の側が撃たれたらしい。通常、こうなったら「出直してくれ」と言われてしまう。どれだけ親しくても、肝心要のことは教えてくれない。

 しかしこの時はついていた。相手の組織の親分が単身、私が訪問していた組織にアポ無し突撃してきたのである。

 事務所に緊張が走った。いまさら出ていけ、と言うのも間抜けだった。その親分は私の知り合いだったからである。雑誌記者がその場にいたことが相手にばれれば、それだけで言い訳のきかない不始末になる。