『アイシールド21』というスポーツマンガをご存知だろうか?

 2002年から7年間『週刊少年ジャンプ』で連載され、日本ではマイナーの域を出ないアメリカンフットボールを題材に、単行本累計2000万部を超えるヒット作品となった。

 少年マンガらしく“必殺技”もたくさん登場する本作品。

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オービックシーガルズの山崎丈路選手

 そのひとつに『60ヤードマグナム』というワザがあり、60ヤードのフィールドゴールを決めるキッカーが出てくる。フィールドゴールとはアメフトにおける得点方法のひとつで、スナップされたボールを地面に置いてキックし、敵陣のゴールポストの間を通すと3点が与えられる。60ヤードのフィールドゴールを安定して決められるということは、フットボールのフィールドを半分進められれば得点できることになる。

 サッカーでいえばハーフラインからフリーキックを決められるようなもので、ゲームバランスを揺るがすレベルの荒技である。作中では何とか得点を決めているが、あくまでマンガの世界……トンデモ技の域を出ないもののはずだった。

 ところが最近、実際にそれを上回るキッカーが登場したのである。それも本場アメリカではなく、この日本で――だ。

今年7月、練習中に73ヤードのフィールドゴールを決めた(山崎丈路選手のTwitterより)

友人の「最期にどうしてももう一度サッカーをやりたい」という言葉が転機に

 山崎丈路(やまさき・たける、26)は昔から、ボールを蹴ることが大好きだった。

 小学校3年生からはサッカーに打ち込み、高校まで日々、練習に打ち込んだ。ただ、フリーキックのようなセットプレーをはじめ、ボールを“蹴る”という行為は楽しかったが、総合的なサッカーの技術を磨くという方向には、どうしても思考が向かなかった。

 そんな姿勢を見た高校時代の指導者からは「お前がやっているのはサッカーじゃなくて“球蹴り”なんだよ」と苦言を呈されたこともあったという。

「そんな感じだったので、サッカーでプロを目指そうとか、そういう想いはまったくなかったです。高校が進学校だったこともあって、普通に大学へ進学して、サークルとかで趣味としてサッカーも続ければいいかなと思っていました」

 

 そんな風に考えていた山崎に転機が訪れたのは、浪人時代のことだ。

 高校時代、サッカー部の主将だった友人がガンで亡くなったのだ。かねてから闘病生活を送っていることは知っていたが、あまりに突然の別れに呆然としたという。特に山崎の心に残ったのは、友人の「最期にどうしてももう一度サッカーをやりたい」という言葉だった。

「やりたいことをやりたくてもできない人がいるのに、やれる自分がやらないのは違うだろうと、そう考えるようになりました。また、どうせやるならサッカー以外でも良いから、自分がとことん追求できること、No.1を目指せるようなことをやろうと思いました」

 そうして1年の浪人の後に、大阪大学文学部に合格。大学で勧誘され、アメリカンフットボール部の門を叩くことになった。