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ある清掃労働者の死

 こうした下水道などの清掃にあたる労働者は、インド全体で少なくとも30万人いるとされている。行政機関や住民からの依頼を受けて、下水管などの清掃作業を行う。多くの人たちがシンのように手袋などをせずに作業を行っており、死亡事故も頻発している。その一つを報じたジャーナリストのツイッターが話題になったのは、2018年9月のことだった。

 インドの大手紙、ヒンドゥスタン・タイムズ記者のシブ・サニーは同月17日、自身のツイッターに火葬場で白い布に包まれた父親の傍らに立ち、涙を拭きながら遺体の顔をなでる少年の写真を掲載した。サニーは、写真とともにこう記している。

「少年は火葬場で父親の体に近づき、布を顔から外して、両手で頬を触りながら『パパ』と言ってすすり泣き始めました。その男性は、金曜日(筆者注:9月14日のこと)にニューデリーの下水道で死亡した貧しい労働者です。家族は彼を火葬するお金すら持っていませんでした」

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写真はイメージ ©iStock.com

 37歳の男性は、ニューデリー市内で下水道の清掃作業を行っていた際に、腰に結びつけていた命綱が外れ、7メートル下に落下して死亡したのだった。少年は11歳で、事故の1週間前には、生後4カ月の弟が肺炎にかかって亡くなっていたという。男性は、幼い息子を亡くしてから日も浅い時に危険な仕事に従事し、命を落としたことになる。犯罪や事件などを専門分野とする、いわゆる「事件記者」のサニーは、男性の死亡事故を知って取材に出向いた。火葬場で目にしたのは、近所の人たちから費用を援助してもらい、遺体を荼毘に付す寸前の姿で、思わずカメラのシャッターを切ったのだった。

「私は事件記者として多くの悲劇を見てきました。しかし、これは私が見たことのないものでした」

「下水道の清掃労働者たちに関心を向けてもらいたかったのです。(ツイッターに掲載した)写真は、家族の窮状を物語っています」

 サニーは、メディアからの取材にこう答え、涙を流す少年を目の前にしたときに「動揺した」と語っている。