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最年少二冠・藤井聡太は、羽生善治の打ち立てた記録にどこまで迫れるか

最年少二冠・藤井聡太は、羽生善治の打ち立てた記録にどこまで迫れるか

年間最多対局、最年少三冠、そしてタイトル通算99期

2020/08/31
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 現在は叡王戦が加わっているので、同時八冠の可能性があるわけだが、まず藤井が最速で三冠を達成する可能性があるのは来年の1~3月に行われる王将戦七番勝負だ。実現すれば18歳7~8ヵ月での三冠王となる。

 四冠目は来年の4~6月となる叡王戦、五冠目が9~10月の王座戦となる。五冠からは19歳を迎えることになる。

 六冠が10~12月の竜王戦で、七冠が22年2~3月の棋王戦。名人は最速で勝ち進んでも2023年4~6月のシリーズまでは登場できないので、最年少の同時八冠は20歳10~11ヵ月ということになる。

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最年少棋士、最年少タイトル獲得など、すでに数多くの記録を更新している 写真提供:日本将棋連盟

 無論、これはすべての棋戦を勝ち進んでのことであり、かつ同時に行われる防衛戦でもタイトルを守らねばならない。普通に考えれば机上の空論に過ぎないのだが、それでもあるいはとファンが期待するのが、藤井聡太という存在であろう。

タイトル99期は三冠王を33年続けなければ届かない

 前述の最年少○冠以上に、現時点では絵空事に過ぎないのがタイトル99期という数字である。仮に藤井が今年度に王将を奪取し、三冠王となっても、それを33年続けなければ届かないのが羽生の通算獲得タイトル数だ。33年後の藤井は現在の羽生の年齢を超えてしまうので、改めて羽生の凄さを思わせる。

 それでも敢えて絵空事に言及するのは、かつての羽生が不滅と言われていた記録を破ったからだ。羽生以前の通算獲得タイトル記録は、大山康晴十五世名人の80期。80期目のタイトル獲得は1982年4月8日に決着した第31期王将戦で、羽生が81期目を獲得したのは2012年7月5日の第83期棋聖戦なので、大山の記録は30年にわたって金字塔であり続けた。

©文藝春秋

 羽生が七冠を達成した(通算24期目)ころだったか、あるいはその数年後だったか、「羽生は中原(誠十六世名人)の記録(64期)は抜くだろうが、大山の記録には届かないだろう」という趣旨の文章を読んだ記憶がある。これは当時の羽生が評価されていなかったというよりは、それ以上に大山の記録が遥か彼方にあるものだと見られていたことの裏返しではないかと思う。

 羽生が通算81期目を獲得した直後に、記録更新はいつから意識していたかを聞いたことがあるが「考え出すと気が遠くなる数字ですから、現実的にあと1、2期になってから考え出したというところです」ということだった。

「記録は破られるためにある」といわれることもあるが、不滅の金字塔が30年の時を経て更新された。では同じことが再度起こっても不思議ではない、というのが通算獲得タイトル記録ではないだろうか。

二人の公式戦初対局は、2018年の朝日杯オープン準決勝だった ©文藝春秋

 なお、羽生は現在竜王戦挑戦者決定三番勝負を戦っており、9月19日に行われる第3局で勝てば、「タイトル100期」をかけて豊島将之竜王との七番勝負に臨むことになる。