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最年少二冠・藤井聡太は、羽生善治の打ち立てた記録にどこまで迫れるか

最年少二冠・藤井聡太は、羽生善治の打ち立てた記録にどこまで迫れるか

年間最多対局、最年少三冠、そしてタイトル通算99期

2020/08/31
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年度最多対局89局で「年間の半分は旅先」

 前2つと比較して早い段階で実現の可能性があると言えるのは、羽生が2000年度に達成した年度最多対局89局及び最多勝利68勝の更新である。ただ、羽生がこの記録を達成した時は、勝てば勝つほど対局が増えるオールスター勝ち抜き戦(現在は休止)で16勝を稼いだのが大きかった。

 仮に2021年度の開始の時点で、藤井が順位戦でB級1組に昇級を果たし(このクラスが一番対局数が多い)、他が現状維持(王将を取るとリーグ戦を指せなくなる)だとして、すべての棋戦を勝ち上がる前提で起こり得る数字を数えてみるとどうなるだろうか。

今年7月の棋聖戦第4局では、渡辺明棋聖に勝利して史上最年少タイトルを獲得した 代表撮影

 結果は、

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竜王戦、ランキング戦2組で2勝、決勝トーナメントで2勝、挑決三番勝負で2勝、七番勝負で4勝
名人戦、B級1組で12勝
叡王戦、本戦トーナメントで4勝、挑決三番勝負で2勝
王位戦、七番勝負で4勝
王座戦、挑戦者決定トーナメントで4勝、五番勝負で3勝
棋王戦、挑戦者決定トーナメントで6勝、五番勝負で3勝
王将戦、挑戦者決定リーグで6勝、七番勝負で4勝
棋聖戦、五番勝負で3勝
朝日杯、本戦トーナメントで4勝
銀河戦、本戦トーナメントで1勝、決勝トーナメントで4勝
NHK杯、本戦トーナメントで5勝
JT杯、トーナメントで3勝

 の、合計78勝となる。番勝負で負ければ対局数はもう少し増えるので、対局数も含めて理論上は更新が可能ではある。

 2000年度の羽生は当時の七大タイトル戦のうち6棋戦に出場し、五冠を堅持。一般棋戦では上記のオールスター勝ち抜き戦の他、銀河戦とNHK杯戦で優勝している。さすがに全勝とまでは行かないが、トップクラスの相手とばかり戦って3勝1敗ペースを維持した結果である。

2018年、竜王戦で広瀬章人に敗れ、羽生は27年ぶりの「無冠」となった ©相崎修司

 こうなると、とんでもないハードスケジュールになるわけだ。複数タイトルの維持と多忙とは切っても切り離せない関係だが、それをどう乗り越えるか。若いうちでは大丈夫でも……というのは将棋界に限らず、すべての世界で起こり得ることである。

 羽生は「初めてタイトル戦に出た頃から、年間の半分は旅先でした」と語ったことがある。慣れない寝床でも十分に疲れを癒して対局に臨むことができるかどうかというのは、トップ棋士には避けて通れないことだろう。休息の取り方というのも技術の1つであると言える。

大山十五世名人は「タイトル戦連続出場50期」

 将棋界でもっとも不滅の記録は、大山十五世名人が1957年から67年にわたって達成した「タイトル戦連続出場50期」であると思う。この間の大山はすべてのタイトル戦に出場しており、番勝負で敗退しても次期にすぐ挑戦者になり、取り返すことを繰り返していた。50期のうち、獲得は44期である。

写真提供:日本将棋連盟

 羽生の記録は1994年6月の名人戦から97年6月の名人戦まで、23期連続出場の獲得19期である。藤井がこの記録に挑むには、まず名人戦に出場を果たす必要があるので、しばらくは実現不可能な記録だ。

 ここでは触れなかったが、他にも「タイトル保持連続27年」「同一タイトル連覇19年」「永世七冠」などなど、羽生が持つ記録は数えられない。本人はまったく意識しなくとも、「平成の棋神」が打ち立てた記録に「令和の革命児」がどのように迫り、破っていくのか。将棋ファンにとっては向こう30年は楽しめるであろう話の種である。

 筆者も一観戦記者として、節目節目で記録の凄さと、その背景をお伝えしていくことが出来ればと思う。

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