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2度目の辞任会見 疲れ切った安倍首相、13年前と比べると悔しくなさそうに見える?

臨床心理士が言葉と仕草を分析する

2020/08/30

genre : 政治

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消え入りそうな声のなか、自信を示すポーズも

「結果を出すために、全身全霊を傾けてまいりました」

「政治においてもっとも重要なことは、結果を出すことである」としてきた首相は、全身全霊を傾けてきたという言葉を使った。体力面だけでなく精神面も含む表現だけに、精神的なストレスもかなり大きかったことと推測される。発言の後、首を傾げるように一拍、間が空いたことも精神的な疲労の濃さを印象づけた。

 2007年の会見では「全力を尽くしてきた」「一身を投げ打つ覚悟で」とやはり強い言葉で自身の政治への姿勢を述べた。全力、一身という表現は若かったこともあるだろうが、精神的なストレスより、政治家として身体を張った勝負ができなくなったことが、辞任理由として何より大きかったのだろうと思う。

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2020年8月29日、辞任会見に臨んだ安倍首相 ©️AFLO

「拉致問題をこの手で解決できなかったことは、痛恨の極みであります」

 拉致問題では声は小さく掠れている。話している最中も両手を組んだりほどいたり、指を動かしたりと落ち着きなく所在なげ。他にやり方がなかったのかと問われると、唇を巻き込むように口元をきつく結ぶ。「そう簡単な問題ではないから、今でも残っているわけであります」と返答。残した問題ではなく、残っている問題という表現から、これまでもこれからも解決には時間がかかると認識しているのだと推測できる。「最善の努力はしてきた」と言ったが、その声は消え入りそうだった。

来日したトランプ夫妻とともに拉致被害者家族と面会する安倍首相 ©️JMPA

「国民の皆様がご判断いただけるのかなと」

「様々な課題に挑戦する中で達成できたこと、実践できたこともあります」と、成果や課題について話す声は低く細く、時おり切れ切れになる。残念ながら小泉政権の郵政民営化のように言い切れるものがない。だが、「在任中に成し遂げたことの中で政権のレガシーとなるものは何か?」と問われると、ジャケットの両ポケットに手をやって整え、お腹あたりをスルリとさすってから答え始めた。首相として身構えたようにも、自分の気持ちを落ち着かせたようにも見える。そんな仕草をした理由は、政権のレガシーは「国民の皆様が判断」「歴史が判断」するものだと答えたからだ。

 だが、東北の復興、デフレ脱却についてはきちんと語りたかったのだろう。拳を握って振り上げ、両手で演壇の両側を掴んで肘を張ったりと、自信のあるポーズを見せた。会見中は、結果として胸を張れるものに関しては、演台をがっちり掴み肘を張るが、成果と言い切れなければ、その両手は演台の端に置かれ肘は曲げられていた。