だが、実はデモシストの規模は数十人程度で、対外的な知名度はともかく香港内部での影響力は強くない。動員能力もなければ、もちろん香港デモ全体に号令をかけられるような立場でもない(デモシストの前身になった学生運動組織は、2014年の雨傘革命当時は中心的な立ち位置にあったが)。
しかも、周庭はデモシストの党首ですらなく、同団体における日本向けのロビー運動・PR活動担当者だ。なお、アメリカやイギリスへの働きかけは、先日亡命した党首の羅冠聡(ネイサン・ロー)や黄之鋒ら、英語が上手で欧米圏での知名度が高いメンバーが担当している。
もちろん、強大な権力に対して健気に立ち向かっている周庭の活動は尊敬に値する。だが、日本の報道のなかであたかも香港デモ全体の代表者のように報じられ、その逮捕が政界までも巻き込むことになった「民主の女神」の実像は、会社組織に置き換えれば「自社担当の営業さん」ポジションの人であるにすぎない。この点については、やはり指摘せざるを得ないところだろう。
「民主の女神」は日本側の造語
日本における周庭人気の高さと、いち政治活動家にすぎない彼女の逮捕に対して日本社会が際立って強い関心を示したことは、逆に中華圏メディアの側からは不思議な現象として受け止められた。
ゆえに台湾や香港を中心に、最近はこの珍現象それ自体を報じる動きが目立っている。以下、周庭逮捕後に発表された日本絡みの中国語記事のごく一部を紹介してみよう。
「日本のネットユーザーはなぜ周庭を応援するのか? 国安法制定後に揺れる中日関係」(香港『端伝媒』8/18)
「日本ではなぜ、李登輝を懐かしみ周庭を応援するブームが盛り上がったのか」(香港『端伝媒』8/22)
「周庭は日本人にとって、ずいぶん珍しい『隣の家の女の子』なのだ」(香港『明報』8/23)※日本人研究者の倉田徹氏による中国語記事
「周庭が揺り動かした不協和音。日本社会はどうやって『香港』に集まったのか」(台湾『聯合新聞網』8/13)
「周庭──清水潔──そして欅坂46」(台湾『風伝媒』8/23)
「日本人はなぜ周庭にハマるのか? 学者が緻密に分析 黄之鋒・羅冠聡もイチオシ」(台湾『自由時報』8/23)
「日本人の心の中の香港の民主の女神周庭は、日本政府の対香港方針を左右するに足る」(アメリカ(華字)『自由亜州電台(RFA)』8/12)
ちなみに周庭を指す「民主の女神」という別名は、実は日本メディアを中心に広められたもので、中華圏(特に香港)の報道では従来使われていなかった。だが、最近は日本側の造語が逆輸入されてしまい、特に台湾を中心に「民主女神周庭」という表現がしばしば見られるようになっている。
“隣の家の革命アイドル”
いっぽう、各記事の分析は興味深い。たとえば香港の人気ウェブ論壇誌『端伝媒』の8月18日付け記事「日本のネットユーザーはなぜ周庭を応援するのか?」はこう書いている。以下に翻訳して紹介しよう。