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「日本人はなぜ“民主の女神”周庭にハマる?」香港メディアも驚く“日本的ガラパゴス感覚”とは

2020/08/31
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 日本での周庭の人気がよくわかるのは、2020年8月末現在で約49.3万人のフォロワーを集めている公式ツイッターアカウントだ。なお使用言語は、ニュースのリツイートなどを除けばほぼ日本語だけである。

 彼女のフォロワー数は、たとえば漫画家の井上雄彦(約49万人)、起業家の与沢翼(約48.1万人)、作家の百田尚樹(約46.2万人)、政治家の山本太郎(約43万人)、歌手でGLAYのヴォーカルのTERU(約42.2万人)らの錚々たる面々をも追い抜いている。

 井上雄彦や百田尚樹を上回る「有名人」である以上、周庭の逮捕で日本のメディアから政界まで大騒ぎになったのも当然のことだろう。

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 ──もっとも、こうした日本の状況は、世界的に見ればかなり「異質」だった。

8月10日、自宅において国安法違反で逮捕された周庭。11日深夜に保釈された ©AFLO

「香港のナベツネ」逮捕さる

 なぜなら、日本以外の世界各国のメディアの報道は、同じ8月10日に香港の大手新聞『蘋果日報(アップル・デイリー)』創業者の黎智英(ジミー・ライ)と、彼の親族や会社スタッフらが国安法違反で逮捕されたことに圧倒的な重点を置いていたからだ。

『蘋果日報』は香港で最も人気の高い新聞だ。香港の他紙が中国資本に組み込まれて親北京的な論調に転換するなかでも姿勢を変えず、特に2019年6月の香港デモ開始後はデモ応援の論調を明確に打ち出して人気を得ていた。

 黎智英が国安法違反で逮捕されたことについては、海外からのクラウドファンディングを用いた多額のデモ支援資金の調達行為が問題視されたもので、報道内容を理由としたメディア弾圧ではないとするタテマエの説明がなされている。ただ、いずれにせよ北京の共産党政府(及びその意に従う香港政府)にとって、黎智英が目の上のたんこぶだったのは間違いない。

2019年8月28日付けの『蘋果日報』紙面。当時、非常事態法制である緊急法の発動が議論されていたこともあり、林鄭月娥行政長官の似顔絵が『魔太郎が来る!』さながらのタッチで描かれている。扇情的でヒネリのある紙面づくりが特徴だ ©安田峰俊

 無理に日本に置き換えるなら、讀賣新聞グループ主筆の渡辺恒雄が発行部数日本一の讀賣新聞を使って1年半にわたり反政府運動を煽り、さらにデモ隊にカネを出していたことが問題視され、本社内で逮捕されるようなものである。かなり強引な説明ではあるが、メディア王・黎智英の逮捕がいかなる大事件かは察せられるだろう。

 いっぽう、黎智英と同日、同じく国安法違反で逮捕されたのが周庭だ。他にも学生団体「学民思潮」の元メンバーでフリーランス記者の李宗澤、政治団体「香港故事」メンバーの李宇軒らの活動家も逮捕されている(余談ながら李宇軒は保釈後の8月27日、台湾に密航亡命を試みて中国当局に拘束された)。

 周庭はこうした活動家たちのなかでは比較的知名度が高いほうだ。しかし当然ながら、香港社会に対する影響力の高さは黎智英に及ぶべくもない。

「日本担当の営業さん」周庭

 周庭が黄之鋒らと所属していた組織「デモシスト」は、香港民主化問題についての海外へのロビー運動やPRを活動の中心に据え、ゆえに中国当局から完全に目の敵にされてきた。中国共産党は伝統的に、自国の反体制勢力が「海外勢力と結託」する行為に対して異常なほど神経質であるためだ。