大衆そば・立ち食いそば屋の「冷がけそば」をよく食べる。しかし、今年はコロナ禍であまり遠出することもできなかった。しかし、どうしても食べたくなる「冷がけそば」がある。しかも茹で麺使用の昭和レトロな一品である。これを食べないと夏を越したきぶんになれないわけである。
「冷がけそば」について少しお話ししたい。
原点は江戸の職人が考案した「ぶっかけそば」
「冷がけそば」とは、「もり・ざる系」とは違い、普通のどんぶりや平皿に冷たく〆たそばを入れ、冷たいつゆをぶっかけたものである。天ぷら、たぬき、きつね、大根おろしやカイワレ、なめこ、納豆などをのせたりする。わさびを薬味につけることも多い。
江戸時代、元禄年間(1688~1704)、忙しなく働く江戸の職人たちが「ぶっかけそば」を考案したとされている。この「ぶっかけそば」から「かけそば」と「冷がけそば」が誕生したといわれている。
江戸時代には、福井の「越前おろしそば」がすでに誕生していた。「冷がけそば」のルーツといってもいいだろう。山形や信州などでも山菜やきのこの「冷がけそば」が日常的に食べられていたはずである。
昭和初期の頃には、岐阜の「更科」では「冷したぬきそば」を提供していたという。きつねとたぬきがのった太いそばに甘辛いつゆがかかったもので、今でも大人気のメニューである。文京区本郷にある「増田屋」では昭和13年に「冷したぬきそば」を販売していたという。
その後、暖簾会系や街そば屋系などでも、「冷しおろしそば」、「冷しなめこそば」、「冷し納豆そば」などが広まった。もりつゆを後からかけるタイプである。
そして、高度経済成長以降、大衆そば・立ち食いそば屋などで、売上げが落ちる夏の間、茹で麺を使った「冷したぬきそば」や「冷し天ぷらそば」などが考案され一気に人気となった。初めからつゆがかけられており、そのつゆはもりつゆより若干返しが弱めで出汁が利いた口当たりがよいタイプが多い。
今では生麺使用の「冷がけそば」が主流となっており、神田などに数店ある「かめや」の「冷し天玉そば」や「小諸そば」の「二枚冷したぬきそば」などが人気となっている。
一方、今まで「冷がけそば」を置いていなかった老舗系や手打ち系のそば屋でも、最近では「トマトのジュレを使った冷がけそば」など創作的な一品を提供する店も増えている。
「冷がけそば」は「もり・ざる系」、「かけそば系」とは異なる新たな人気メニューのジャンルとなっている。
さて、茹で麺を使った昭和レトロの東京の大衆そば・立ち食いそば屋の絶品「冷がけそば」を紹介しよう。