立ち食いそば屋が閉店ラッシュと心配していたのだが、自分のことをふと顧みてもぞっとする状態になっていた。仕事が少ない。ビジネスメールも減っている。最近は、Amazonのおすすめ商品メール、Pontaカードの残高お知らせメール、ビックカメラのキャンペーンメールばかり……。今の心境は、ソール・ベローの「この日をつかめ(Seize the Day)」の主人公トミーに近いことに気が付いた。なんとなく焦ってソワソワする。
まあ、愚痴を言っても仕方ない。“Go To トラベル”ならぬ“Go To そば屋”ということで、コロナ対策をして取材にでかけることにしよう。
57年間続く老舗そば屋
今回向かったのは、蒲田にある街そば屋「香取屋」である。店は蒲田駅西口から池上線蓮沼駅に行く道沿いの左側に立地している。ちょうど繁華街から住宅街に入った中程にある。創業は1963年。現在の店主は2代目の岩田茂雄さんで、奥さんとお母さんの3人で切り盛りしている。
最初に訪問したのはもう10年以上前のこと。もりつゆ(辛じる)が抜群にうまく、そばのツヤがよく、コシがあり、量もそこそこにあって満足した記憶が残っていた。「香取屋」は老舗でありながら、気取ったところがなく大衆的でフレンドリーな雰囲気がいっぱいの店である。
今年3月、コロナ禍が始まった頃にうかがった時、店主がコロナを憂えていたのだが、現在はどんな状況か心配になり、8月のお盆明けに改めて訪問したわけである。
「まあ早く開けてもいいんですよ(笑)」
訪問したのは日曜日の午前10時半過ぎ。風格のある扉を開けて入店すると、岩田さんがすぐに笑顔で迎えてくれた。
営業開始時間は正式には午前11時なのだが、通例で30分前位には店を開けているそうだ。その理由がまた大衆的で潔い。「そば屋は朝早くから仕込んで準備が終わっているから、まあ早く開けてもいいんですよ。出汁もおいしいしね」と岩田さんは笑顔で話す。
すこぶるウマい!「生なめこそば」(900円)
今回はまず、前から食べたかった「生なめこそば」(900円)を注文した。温も冷もできるというので冷しでお願いした。