2020年9月19日公開の「名古屋闇サイト殺人事件」を扱った映画『おかえり ただいま』は、「東海テレビが作らずにはいられなかった映画」だという。その理由を、齊藤潤一監督は次のように明かしている。

〈3年前、私は胸につかえを感じていた。(中略)現場ディレクターとして番組を制作するのが難しい年齢になったことを自覚し、心残りがあったのだ。2009年に犯罪被害者遺族を追った『罪と罰~娘を奪われた母 弟を失った兄 息子を殺された父~』を制作した。そのうちの一人が磯谷富美子さん。事件直後であったが「死刑を求める署名活動を広めたい」と密着取材に応じてくれた。撮影のたびに利恵さんを思い出し、涙を流しながらも気丈にインタビューに答える姿に、感謝しながらカメラを回していた。番組では「犯人を死刑にしないでくれ」と懇願した名古屋保険金殺人事件の被害者の兄も取り上げた。「死刑を願う母」と「死刑を求めない兄」。二人を対比した構成は富美子さんが望む番組にはならず、いつか寄りそった作品を制作し、お詫びしたいと考えていた〉(『おかえり ただいま』プレス資料より)

 作品公開に先立ち、映画について齊藤潤一監督により詳しく聞いてみた。(全2回の2回目/#1を読む)

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テレビ局が視聴者に突きつけられた「被害者遺族の気持ちがわかっているのか?」

被害者利恵さんの母・富美子さん ©️東海テレビ放送

――映画『おかえり ただいま』を制作することになったきっかけは何だったのでしょうか?

「まず、以前この事件を扱った『罪と罰~娘を奪われた母 弟を失った兄 息子を殺された父~』というドキュメンタリー番組(以下『罪と罰』)を撮ったのが、最初の取材でした(2009年4月放送)。事件が起きたのが2007年。事件が起きて一審判決が出るまでを追った作品なんですけど。なぜこの『罪と罰』を作ることになったのかというと、1つ前に『光と影~光市母子殺害事件 弁護団の300日~』という作品(以下『光と影』)がありました(2008年5月放送)。

 光市母子殺害事件(1999年)で弁護団がバッシングされた時期があったのですが、そのときに弁護団側の取材をし番組を作った。これを放送した直後、お叱りのメールや電話をいっぱいいただいたんです。『東海テレビは、被害者遺族の気持ちがわかっているのか?』と。

 それで被害者遺族の番組を作ろうと思って『罪と罰』を作ったんです。ちょうど『光と影』の放送を終えて……それが磯谷富美子さん(名古屋闇サイト殺人事件、被害者の母)を取材しようとしたきっかけでした。磯谷さんが犯人の死刑を求める署名を集めているところで、まだ裁判が始まる前でした」