――では、犯人の父親は事件から10年経って取材に来た、と思っているんでしょうか?
「多分10年前も、取材は他のスタッフが試みた可能性はありますけど。ニュースでいろんな記者が関わっていますんで。でも父親にしてみれば『10年経ってまた来たな』という感じだったんでしょうね」
――つまりこの作品は10年越しの作品なんですね。
「10年前の『罪と罰』でさまざまな取材をしたんですけど、そのときに取材したものを全部放送できたわけではないので。そのときのテープも改めて編集の中に入れ込んだりしました。『名古屋闇サイト殺人事件』って東海地方ではすごく大きな事件なので、事件から1年後、3年後、5年後と、節目節目に磯谷富美子さんに取材をさせていただいてきた。そういう意味では10年分密着した取材を、今回活用したという感じですね」
――この長い10年で、監督が最も涙を禁じ得なかった場面というのはどこでしょうか?
「ぼくは、やっぱり利恵さんが拉致をされて、犯人から『暗証番号を言え』と脅されるなか『お母さんのためのお家を建ててあげたい』と、コツコツ貯めたお金を守るためにニセの暗証番号を言った、というその部分の物語です。一番思い入れのあるシーンですね(再現で、女優・佐津川愛美さんが演じている)」
ニュース担当のスタッフだからこそ撮れた、肉薄した再現ドラマ
――監督は、ドラマ部分もドキュメンタリーと変わらない気持ちで撮っていらっしゃるんですか?
「そうですね。スタッフ全員、気持ちとしては同じですね。切り替えて、というものではなく……ドキュメンタリー部分もドラマ部分も、普段一緒にニュースを作っているスタッフで作ったんです。東海テレビではドラマも作っていてドラマ専属のスタッフもいるんですけど、あえてここは、普段ニュースで一緒に汗をかいているスタッフでドラマも作ったんです。今回再現ドラマも撮ったカメラマンは、報道する際に実際、現場に行っている。状況も知っていますんで、より気持ちを込めて……多分、いろんな感情を持ちながら、役者さんと撮影できた。それは、普通の劇映画のカメラマンにはないものだと思います」
――そういう意味では『おかえり ただいま』はドラマ部分もエンターテイメントとは違う、ということでしょうか。
「そうですね。ドラマ部分も、本当に悲惨な現場を数多く見てきていたスタッフで作ったので。役者さんも、この事件を知っている方がほとんどだったんですけど。それぞれ新聞や資料を読んでいただいて臨んでいただきましたし。斉藤由貴さんは実際にお嬢さんがいらっしゃいますから、母親である磯谷富美子さんの気持ちに寄り添って演じていただきました。佐津川愛美さんは30歳で撮影に臨んでいらした。やっぱり同じ年代の利恵さん(当時31歳)の気持ちになって役を演じていただけた。世代の近さは狙って佐津川さんにお願いしたんですけど、佐津川さんとしてはご自身に重ねる部分はあったと思います」