日本人の8割は死刑制度を支持している
――『罪と罰』というドキュメンタリー番組は、死刑制度について、逆の意見を持つ被害者家族の対比、という構造の番組だったと聞きました。
「そうです。磯谷さんの場合と、全く真逆の人がいまして。弟を殺されたお兄さんで『犯人に、生きて償ってほしい』という方。もう一人は息子を殺されたお父さんなんですが、この人は磯谷さんと同様、最初は犯人に死刑を求めていたんですけど、だんだん心が揺れていく、という……。この3人の被害者遺族をご紹介したんです。
やっぱり日本人の多くの人は死刑を支持している。支持する人が8割です。磯谷さんに共感する視聴者が多いんです。ぼくたちは『被害者一族を一括りにしてはいけない』というか『いろんな考え方の人がいるんですよ』というのを提示したかった」
――映画『おかえり ただいま』の予告編にも出てきますが、この作品は「死刑存廃論」について考えてもらうのがテーマなのでしょうか?
「そこは結果論のような感じで、今回は『家族の物語』にしたかったんです。『罪と罰』で磯谷さんを取材させていただいたものの、60分のテレビ番組で3つの家族を登場させると、1家族20分しか放送できない。ドキュメンタリーということで事件から裁判まで、磯谷さんのお母さんを取材させていただいてるんですけど……磯谷さんからお話を聞くと、生前の利恵さんとお母さんのエピソードがいっぱいあった。その部分を今回は特に紹介したいと思って制作したのが『おかえり ただいま』だったんです(テレビ版は2018年12月放送)。これはどちらかというと家族の大切さ、親子愛というのを全面に出した作品にしたいと思いました。
もちろん事件を紹介するということは、死刑制度を考えるという作品にもなっていると思うので……それはそれで、大切なことだとは思います」
――いろんな立場から考えつつ制作した番組なんですね。
「被害者側がメインなんですけど『おかえり ただいま』では加害者側、犯人側の家族も紹介しました。この事件をいろんな角度から観ていただいて、いろんなことを考えていただければと思っています」
――事件の残酷なシーンを必要以上に生々しくしない、というのは監督の主義でしょうか。
「そうですね。その部分、殺害直前の『暗証番号を教えろ』というあのやり取り。そこはお母さんのために、家を買うために、預金を守ったという利恵さんの強い意志があったところなので、そこはしっかり描こうと思ったんですけど。その後の犯行の部分はそんなに詳細には描きたくないな、と。そこをクローズアップして凶悪な事件だと訴えるという方法もあるかもしれないですが」