私たちのところへ最近新しい対戦車砲が配置されたのである。そのなかには鹵獲したロシアの76.2ミリ砲が入っていたので、私は元外人部隊兵と船員とに、この砲の操作を訓練した。
情報部員の報告によると、イギリス軍はエル・ダバ=メルサ・マトルー間で、海上からの上陸作戦を計画していた。この報告を受けて、私の大隊は士気大いにあがった。命令がくだって、直接海岸沿いに防禦監視哨を設けることになった。事実上遊び同様の仕事である。2日間で最重要地点に監視哨をつくり占拠した。各監視哨は完全に擬装した無電局を連続して設置し、相互に連絡をとるようにしてある。
つかの間の安息も……
兵隊の一部が勤務についていると、ほかの連中は自由に海に入って楽しんでいた。給与もよくなったし、私の運転手は土地のベドウィン人からナツメ椰子の実、卵、ニワトリなどを買い入れた。だが私はアラビア人たちがロバに乗ってのんきそうに通りすがり、その後から重い荷を背負った女たちがたどたどしく歩いて行くと、横目で睨んだ。あの鋭い砂漠で鍛えた眼は何一つ見逃しはしなかった。ここでもよそと同じように、奴らの多くはスパイなのを、私は確信していた。二大強国がほとんど無人の住むに適しない荒野で死闘をつづけているというのに、この遊牧民はこの戦いをどこ吹く風か、どうせ頭のおかしな異教徒の愚行だと見て、戦闘のさなかを平気で移動して歩いた。彼らはみんな同じような顔つきであった。彼らの衣服には、ユニオン・ジャックの旗も鉤十字もついていないのだから、わがほうから金を貰っているのか、それとも敵からか、見きわめようがなかった。おそらく奴らは両方のスパイをしているのだ。
砂漠に新しい狐が生まれた
わが情報部員が、その間に、ニュースをもたらしたが、それによるとモントゴメリーはアフリカ最大の戦闘を準備していた。ロンメルと同様、彼も狡知にたけて、恫喝を用いていた。だがモントゴメリーが詐術を利用する場合には、違ったところが一つあった。ロンメルが弱点をごまかすため普通の車輛を戦車と見せかけたのに対して、モントゴメリーは板とズックと布とで、恐るべき新アメリカ製戦車を無力そうな輸送車に変装させて、戦力を隠そうとした。砂漠に新しい狐が生まれたのである。