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「料理的な要素がより近い液体」

 佐々木のどぶろくがようやく、ひとつのレベルに達したのは、造り始めて12年が過ぎた頃だった。

どぶろくはほんのり甘く、まろやか ©文藝春秋

「僕が求めていたバランスのとれた味になったんです。酸味、苦味、甘味、あとはアルコール感、醪の溶け具合。これらが僕の中では整ったな、ということを明確に感じ取ることができた。具体的には、蒸米に対しての水の量、麹の割合などレシピが完成したんです」

  来日していたスペインの貿易会社の社長がたまたま佐々木のどぶろくを口にしたのをきっかけに、ほどなく、ヨーロッパなどに輸出され、世界からも評価され始める。

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「ヨーロッパのトップソムリエとかは、『日本酒ってほとんどドメーヌなんかなくて、自分で田んぼもやってなくて、米は外から買ってくる。その米にしても農薬とか肥料を使っているんだろ』と言う。『肥料の原料ってどういう環境でできているんだ』とかすごく訊いてくるんです。逆に僕のどぶろくは、環境に配慮していて、農薬も使っていないというフィロソフィーがしっかりしているというところが評価されたんだと思う」

 佐々木のどぶろくは、スペインや香港などのレストランで提供されるようになっていた。

鰹の内臓を発酵させ塩漬けした液に一か月漬けたぷりぷりのぼたん海老 ©文藝春秋

 

 佐々木はどぶろくの魅力をこう表現する。

「日本酒より、身近さ、親近感はあると思います。アルコールの飲み物でありながら、どっちかというと、料理的な要素がより近い液体だと思う。何に掛け合わせても負けない。だから、自分でどぶろくに合わせた料理もつくれるし、何よりどぶろくは醸造家では醸せない。米農家にしか醸せない飲み物だと思うんです」

 こののち、どぶろく造りと並行して、佐々木は料理への意識も強めていくことになる。

 佐々木の発酵料理は、やがてどぶろくと同じく、いやそれ以上に注目を集めていく。何にも縛られない自由な発想は、縦横無尽に食材を醸し、どこにもない新しい料理を生み出していくのである。