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リトルプレスならではの楽しみ全開。又吉直樹・書き下ろしアンソロジー『Perch』が出来るまで

又吉直樹×佐藤亜沙美×九龍ジョー×木村綾子

note

当たり前のものとして描かれている「移動」が非日常になったことを痛感

又吉 空港で販売を始められるなら、それに越したことはないと思いました。つくってから時間がたちすぎてしまうのも心配だったので。

木村 とはいえこのご時世、福岡に行かなければ手に入らないというのはあまりに不親切ですし、又吉さんが羽田のために書き下ろしたというところは揺るがしたくなかった。そこで、「TSUTAYA BOOKSTORE福岡空港」の店頭で販売すると同時に「羽田空港 蔦屋書店」のオンラインショップでも買えるように手配しました。

 そしてあくまでもこれは、「羽田空港 蔦屋書店」営業再開を待つ間の、“部数限定先行販売”ですよ、と。その思いをスタンプに込めて、本にスタンプを押せる体験は「羽田空港 蔦屋書店」の営業再開まで保留にしました。「いつかまた自由に旅ができるようになったら、その途中に立ち寄って、あなただけの『Perch』を完成させてください」というメッセージとともに。

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©佐藤亜沙美

 さっき九龍さんが、『Perch』を読んで旅を疑似体験してもらえたらとおっしゃいましたが、いまこの本を読むと、旅の記憶がうずくというか、刺激されるんです。そこにはたぶん、又吉さんが、旅に出る人を想像しながら書いてくださった作品ばかり収録されているからということもあるでしょうし、もしかしたら、又吉さん自身の旅への思慕とか、旅をすることへの共感みたいな、親密な気持ちが織り込まれているからなのかもしれません。

 無邪気に旅をすることがかなわなくなったいまだからこそ、『Perch』と共に過ごす時間や、スタンプを押せる日を待ち遠しく思う時間が、コロナ禍の希望になったらいいなと願っています。

佐藤 私も今日のために『Perch』を読み返してみて、移動や旅という概念が、コロナ後に決定的に変わったことを実感しました。掲載されている作品が、切実で尊いものとして触感が全然違うものになった。もう手が届かなくなってしまったかもしれない、より特別なものになった感じがしています。収録されている掌編に「一匹」という作品があるのですが、これを読むと私は「移動する」ということを思い浮かべるんです。同時に、当たり前のものとして描かれている「移動」がいまや非日常になったことを痛感する。『Perch』そのものが変化していると思いました。

又吉 旅ができなくなる寸前に、旅に行く時に持って行ってもらいたい本をつくる。タイミングが悪いんですよね、きっと。悪いんでしょうけど、それをようやく読んでもらえるということは、少しずつでもみんながまた旅に行けるようになりつつあるということでもあるのかなと思うと、僕はシンプルにすごく嬉しいんです。あとは、飛行機の座席の前のポケットに『Perch』が忘れられないかどうかを心配しています。寝て起きて急いで飛行機を出て、「あ、忘れた」みたいなことが僕はしょっちゅうあるので、みなさんには、どうかそれだけは気をつけてほしいですね。

©深野未季

取材・構成/森山裕之

◆◆◆

【『Perch』販売店情報】
2020年9月26日(土)7:00より下記2箇所で販売されます。

○羽田空港 蔦屋書店オンラインショップ
https://store.tsite.jp/haneda-airport/news/magazine/15872-1627410911.html

○TSUTAYA BOOKSTORE福岡空港 ※店頭のみ
https://tsutaya.tsite.jp/store/fukuoka-airport/

営業時間:朝6:30~21:30(当面の間朝7:00~20:00) 不定休
所在地:福岡県福岡市博多区下臼井767-1 福岡空港国内線ターミナルビル3F
電話番号:092-627-1611

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