こうした連載を毎週、8年以上も続けているくらいなので、43歳という年齢の割にはそれなりに多くの本数の旧作邦画を観てきたつもりだ。
が、それでもまだまだ観ていない映画はあるし、存在すらよく知らなかった作品も少なからずある。
そんな「よく知らなかった作品」に出会わせてくれるのが、「DIG」。日の当たらない旧作映画をDVD化し続けるこの貴重なレーベルは、本連載との親和性も高いため新譜が出る度にサンプルを送っていただいている。その中には「うわ、こんなのもあったのか!」と新鮮な刺激をもらえる作品も多くあった。
今回取り上げる『狂熱の果て』も、「DIG」のおかげで初対面できた一本だ。
配給は新東宝の倒産後に分社化して設立された「大宝」という無名の会社。「映画界の新らしい魅力 新生大宝」と高らかに宣言するクレジットが出るオープニングから楽しい。
肝心の本編はというと、これが思い切りブッ飛んでいる。舞台は1961年の六本木。金持ちの若者たちがダンスホールに車で乗り付ける際に牛乳配達の自転車を倒してしまっても平然としている冒頭から、不穏さに満ちている。
物語らしい物語はない。描かれるのは、目的を失い毎晩の享楽と喧騒に興じるしかない若者たちの無為な日々。日常の中で、刹那の暴力とセックスの様子が綴られる。そして、映し出される若者たちは皆、虚しい顔をしている。
といって、けだるいだけの内容かというと、そうではない。中盤、みんなで海に遊びに行ってからの展開が、とんでもなくなってくる。
若者たちは老婆を轢き殺し、その死体からは脳が溢れ出す。それに抗議した夫は堤防から突き落とされる。――といった具合に、残虐なシーンがいきなり映し出されるのだ。と思ったら、次の場面では何事もなかったかのように元に戻り、けだるい踊りが長々と繰り広げられる。
そして始まる「アウシュビッツあそび」という悪趣味な遊び。――といっても、それぞれに身体を何重にも折り重ねるというだけなのだが。
若者たち以外も尋常ではない。ヒロイン(星輝美)の父は、家族への恨み言だらけの遺言を書いて自殺を図りながらも未遂に終わり、精神病院に無理やり運ばれる。揚げ句に入院先で自殺してしまう。この悲劇も、唐突な中でいきなり描かれていた。
一つ一つの場面が衝撃的に際立っている上に、脈絡がない。悪い夢でも見ているような、あるいは深酒で泥酔した翌朝のような、観ていてそんな不安定な気分になる。この気味悪さ、病みつきになる。