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連載昭和事件史

愛人の死体をトランクに…「乱倫極まる美貌夫人」をめぐる四角関係が生んだ猟奇殺人とは

愛人の死体をトランクに…「乱倫極まる美貌夫人」をめぐる四角関係が生んだ猟奇殺人とは

美女の誘惑が運命を変えた「児玉博士邸事件」 #1

2020/09/27
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 その後も新聞は「『桃色ギャング』と 青柳を罵倒す」「鮮血を掬ひ(すくい)あげ 中園の前に跪(ひざまず)く」「『高野山で尼に』 罪業を顧みて 泣き伏す勝美」「勝美夫人が洩した 性生活の不満」など“書きたい放題”の報道。かなりの誤りもあり、中には、いまなら「フェイクニュース」と言われてもおかしくない記事も。さらに、加害者、被害者の親族、友人らがそれぞれの立場から弁護、非難。何が真実なのか分からない状態で、それがさらに事件への興味をあおった。

 10月4日付大連新聞朝刊には、和歌山に派遣した特派員からの「狂気染みた彌(弥)次馬(野次馬) 和歌山驛(駅)構内に二萬(万)」の記事が。勝美が高野署から連行されて和歌山へ向かう列車に乗り込むと「乗り合わせた学校帰りの女学生の一団から『あの人よ、あの人よ』と騒がれて嘲笑のささやきの中に黙々とハンカチをもてあそび」「和歌山駅に近づくと、野次馬は増加し、停車ごとに喚声をあげて殺到し『戸を開けろ、戸を開けろ』と騒ぎ立てる」「和歌山駅では、勝美を見るため、わざわざ入場券を購入して入り込み、待ちもうけている群衆が無慮2万」という大騒ぎに。

東洋一の大埠頭に野次馬3万人!

 大連新聞は10月5日付朝刊に「謎を包む児玉博士と 本社記者つひ(い)に会見」の独占インタビュー記事を掲載した。大連の検察局で4時間にわたる調べを受けた後の取材で、「とにかく、僕は下手人では絶対にない」「世間では僕に対し、いろいろの疑惑をもって見ているだろうし、新聞は、あたかも僕が殺したように伝えているとのことだが、甚だ迷惑千万だ」と応答。最初は「興奮した博士は極度にどもって簡単に口も利けない」状態だったと書いた。

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勝美と中園が大連港に着いた際の騒ぎを報じた大連新聞

 10月7日、勝美と中園は神戸出帆のはるびん丸で大連に向かった。船中で中園は「全ては運命だ。一番かわいそうなのはこれ(勝美)だ」と語り、勝美は「このうえ生き永らえても、何の楽しみもありません。早く仏のお弟子にでもなって罪業を償いたい気持ちです」と消え入るような声で話した(10月8日付同紙朝刊)。

 当時東洋一の規模とうたわれた大連埠頭到着時がまたすごかった。「情痴惨劇の 主役を迎えて 埠頭空前の混雑 女を主に人出三萬(万)」は10月11日付大連新聞夕刊の見出しだ。記事には「埠頭を埋め尽くした群衆」と船中の勝美と中園の写真も。その騒動は見出しを並べただけで分かる。「群衆の罵聲(声)を浴び 別れ別れに恥のドライブ」「すっぽかされて 憤慨する群衆」「船が着くまで 惚け散らす中園 『出獄したら一緒に伺(うかが)います』」……。

 10月27日付の東朝朝刊でも児玉の述懐が報じられた。「夫婦というものは、あくまで趣味の合致した者同士がなるべきであり、それが家庭生活の根本」「妻の不始末に対して、一半の責任は自分が負うべきであり、妻のみを責めることはできぬ」「この2、3年来、満州チフスの研究に没頭し、家庭を顧みなかったのは事実だ」「自分の妻にしても、外に出歩き回らず、家にいて原稿でも整理してくれるような妻だったら、どんなに立派な家庭がつくれたかと思う」。いまなら間違いなく反論が出る考え方だろう。事件への関心を考えると、当時も完全に受け入れられていたとは思えない。

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