ちょうど10年前、高校球界を席巻した1人のプロ野球の投手が、昨年秋、1勝も挙げられないまま静かにユニフォームを脱いだ。ソフトバンクの島袋洋奨(27)である。

 島袋は2010年、沖縄・興南高校のエースとして、春夏連覇を成し遂げた伝説の投手だ。全11試合で、他のピッチャーに任せたのはわずか4イニング。両大会をほぼ1人で投げきったと言っても過言ではない。投球時、大きく振りかぶり、打者に背中が見えるくらい大きく上半身を捻った「琉球トルネード」と呼ばれるフォームが特徴だった。

島袋洋奨 ©文藝春秋

 しかしプロ入り後、そのダイナミックなフォームはすっかり影を潜めた。島袋の最後の登板は2019年9月23日、ウェルファムフーズ森林どりスタジアム泉(宮城県)で開催されたソフトバンク対楽天の三軍戦だった。先発した島袋は振りかぶることも、大きく上半身を捻ることもなく、5回4失点でマウンドを降りた。

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©文藝春秋

 現在は母校・興南の事務職員を務める。

 さまざまな報道では、島袋は大学時代にイップスにかかり、それがきっかけでフォームを見失ったと言われている。イップスとは、スポーツの世界で、今までできていた簡単なプレーが突然、できなくなってしまう状態を指す。ただ、その定義自体が曖昧なところもあり、まだ、誰も何もつかめていないのが現状だ。

母校・興南の事務職員を務める島袋さん

 イップスと呼ばれているものの正体はいったい何なのか。アスリートや研究者に話を聞いていく。

 その第1回目として、脚光を浴びた高校時代から一転、光の当たらないところを歩き続けた島袋の興南フィーバーのその後を聞いた。