そんな私の口に、いきなりゼリーを入れた女の先生がいたのです。
「何? 誰? どうしてゼリーをくれたの? とりあえずありがとう!」といった感じで、私には訳がわかりませんでしたが、じつはその人が言語のリハビリを担当する先生だったのです。ちなみに、私の中に「ゼリー」や「リハビリ」という言葉はまだありません。
翌日、また同じ言語の先生が現れ、別室に案内された時に初めて「これが私の先生なんだ」と認識しました。
ほとんど赤ちゃんからの出発
最初にペーパーテストを受けました。鉛筆を渡されて、「答えを紙に書いてください」と言われたのですが、答えを書く以前に、当時の私の右手の握力はゼロだったので、左手で鉛筆を持つ練習から始めました。当時のことは、じつはよく覚えていません。ほとんど赤ちゃんからの出発で、世界を把握すること自体が、まだできていなかった、ということでしょう。
国語や算数など、失語症のテストもいくつか受けました。
たぶん、言語の先生(言語聴覚士)が共通して使用するテスト(SLTA 標準失語症検査)だったはずです。
私はいくつかの病院で、このテストを4回か5回受けましたが、内容はすべて同じでした。言語聴覚士の先生が代わっても、テストの結果を見れば、患者の回復がどれくらい進んでいるかがわかります。テストでは聞く力、話す力、読む力、書く力、計算する力などが評価されますが、リハビリをするたびに、少しずつ結果が良くなるのです。
私が最初に受けたテストの結果は散々だったはずです。先生は私に正しい答えを教えてくれないし、教えてくれたとしても、私には理解できません。
「あなた、こんなんじゃどうするの?」という先生の言葉は、とてもよく覚えています。きっと唖然としたんでしょうね、私があまりにもできないから。
でも私からすれば、話せなくても心の中では言いたいことがある訳です。たとえば私が「お母さんわかんないからお母さんでお母さん」と喋っている時には「何日もお風呂に入っていないから入りたい」と伝えたいのです。でも、それは相手にはまったく伝わらず、私も心の中で「わからないだろうなあ」と思うだけ……。