横浜市歴史博物館にて、緒形拳の企画展が始まった。ここでは、緒形拳の実際に使用した台本や映画ポスター、書家や陶芸家としての作品が展示されている。
そこで、しばらくは緒形拳の出演作を取り上げてみたい。緒形拳は主役・脇役を問わず多彩な役柄を演じ、その大半において、配役の中で当人に求められる役割を完璧に果たしてきた。
それは、悪役を演じる時も変わらない。徹底して悪く、強く、賢しく。敵としての強大さを見せつけ、主人公に立ちはだかっている。
今回取り上げる『影の軍団 服部半蔵』は、そんな緒形拳の悪役としての魅力を味わえる一本だ。
舞台となるのは、徳川将軍が三代から四代に代わる頃。主人公は伊賀忍者の頭領である三代目・服部半蔵(渡瀬恒彦)だ。
徳川家に尽くしたにもかかわらず幕府が安定されるや家を取り潰された二代目の無念を受け、半蔵は手下たちと盗賊に身をやつしながら権力に牙を剥き続ける。老中・松平伊豆守(成田三樹夫)はそんな半蔵を利用して、自らの権力を磐石にせんとする。が、半蔵はその誘いを拒んだ。
すると突然、「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」と印を結ぶ呪文を低く響かせながら、半蔵の前に謎の黒い人影が現れる。少しして気づく。この者、物陰にいるから黒く見えるのではない。頭の先から足先まで、全身を本当に真っ黒に塗り固めていたのだ。
そして、その塗料が剥がれ飛ぶと、中から出てきたのが、全裸に坊主頭の緒形拳。
カッと見開いたその目の狂気も合わせて、驚いて一目散に逃げ出した半蔵が「バケモノだ……」とおののくのも納得できる、異様な恐ろしさを放っていた。
緒形拳が演じるのは、甲賀忍者・四郎兵衛。伊豆守の下で、その陰謀のために暗躍する。ここでの暗躍ぶりが実に妖しくて魅力的。顔に化粧をほどこして法衣をまとえば、高僧として幕府重役や将軍の生母に近づいて催眠術で意のままに操る。鎖帷子に黒マントをまとえば、忍者軍団を手足のように動かして半蔵たちに襲いかかる。その間、緒形は瞬き一つすることなく、目を開いたまま悠然とたたずむ。その様を見ていると、四郎兵衛が世の闇の全てを支配しているようにすら思えてきた。
作品としては、伊賀と甲賀の対決がなぜかアメフトそのものだったりと、トンチキな部分も少なくない。が、この緒形の徹底した悪役ぶりの恐ろしさが、半蔵は勝てないのではと本気で感じさせてくれて、物語をスリリングに盛り上げていた。