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2020/10/13

歴史の勝者は目をそらすことを選んだ

 仮に予備知識がない人が展示を見た場合、アイヌは前近代まで立派な文化を残していたが、近代以降は原因不明の理由で自然減少した民族である──、という奇妙な認識を持ってしまいそうだ。

 ピンとこない人は、白人の土地侵略や差別に言及しないインディアンやアボリジニの博物館や、中国共産党の経済侵略と文化弾圧に言及しないウイグル人やチベット人の博物館をイメージしてほしい。ウポポイにおけるアイヌの歴史は、まさにそういうグロテスクな語られ方がなされている。

2014年3月、中国の新疆ウイグル自治区ヤルカンド市で携帯電話店の前にたたずんでいた少数民族ウイグル族の女性。国家が確立する過程で、辺境は多数者によって飲み込まれていく。

 どこの国でも、強力な近代国民国家が成立する過程では辺境の征服と同化がおこなわれ、征服者から見て「野蛮」とされた先住民が不利益を被る負の歴史が生まれる。日本に限らず、列強や主要国と呼ばれる国家は等しく血塗られた過去を持ち、ゆえに強くて豊かな国として発展してきた。

 なので、先進国が過去の自国内における征服の歴史を認めて向き合うことは、国際的に見れば国家の恥にはなりにくい(他国も似たようなものであり、近年はむしろ積極的に向き合ったほうが評価されるくらいだ)。

 これは歴史の勝者の子孫が、被征服者に対して最低限抱くべき仁義だろうとも思えるのだが、ウポポイの建設を決めた人たちは、そこから目をそらすことを選んだようである。

博物館内に展示されていた江戸時代末期の『蝦夷漫画』の一部。当時まではアイヌ・モシリ(人の住む静かなる土地≒アイヌの土地)だった北海道は、明治時代に入ると急速に日本に組み込まれていく。

 アイヌ民族博物館の展示のブースのタイトルは「私たちの歴史(ウパㇱクマ)」だ。とはいえ、アイヌ自身が、自分たちが滅びた本当の理由を和人のために隠蔽してあげようと考えるわけはあるまい。

 私がウポポイから覚えたモヤモヤ感の正体は、まさにこれなのであった。

最後に中国の話をしよう

 さて、私の本業は中国ライターなので、最後に中国の話を書く。中国広東省の深圳市には、1988年に建設された「錦繍中華民俗文化村」という、中国国内のさまざまな少数民族の文化を体験できるテーマパークがある。

 この民俗文化村では、中国共産党政府の少数民族に対する言語・文化・宗教の弾圧と同化政策、言論統制と監視社会化、経済侵略政策といった諸問題への言及は一切なされない。施設内では、もっぱら観光客のオリエンタリズムを満足させる目的で、歌や踊りのショーが魅惑のアトラクションとして開催されている。

 観客はこうした少数民族たちの見世物を見て、雑な考証のもとで適当に再現された伝統家屋をバックにした自撮り画像をSNSに投稿し、偉大なる中華人民共和国の諸民族の友好と団結を再確認する。これが中国式のマイノリティの取り扱い方である。

 ──もちろん、わが日本には、そのような施設はたぶん存在しないはずであろう。

撮影=安田峰俊

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