右と左や東西南北といった方向、向きを示す言葉は基準がなければ成り立たない。どこか基準があってはじめてそこからの方向として北だとか南だとか、そういう話ができるのだ。基準を示さずに「今は西にいるよ」と言われても、それがどこか皆目見当もつかない。
これは地名、例えば駅の名前でも同じことである。よく例に挙げられる浦和駅シリーズ。東西南北すべて揃っていてさらに武蔵浦和や中浦和、浦和美園と“浦和”の付く駅は数多い。で、これがきちんと機能しているのは、中心の「浦和駅」があるからだ。
と、のっけから実に当たり前の話をしてしまった。これにはワケがあって、首都圏の路線図を眺めていたら本来ならば拠って立つ基準があるべきなのに、それを持たない方角付きの駅があるからだ。すべてを調査したわけではないのでなんとも言えないが、少なくとも西武鉄道には4つもある。それもすべて東〇〇駅という。
西武なのに東、というのは不思議な池袋を歌ったビックカメラの歌のようだが、池袋の不思議よりも拠り所なき東〇〇駅のほうがよほどナゾ。いったい、どうしてこうした駅が生まれたのか。そしてそれらの駅はどんな駅なのか。実際に訪れつつ、調べてみることにした。
“東”長崎駅には何がある?
東長崎駅は池袋線で池袋駅から2つ目の駅だ。池袋線は地下鉄副都心線・有楽町線からの直通列車がすっかり主役顔になっているが、東長崎駅があるのは直通列車が通らない区間。もちろん各駅停車しか停まらない。ただ、大ターミナル・池袋にもほど近い豊島区内。きっとにぎやかな駅に違いない。
そう思いつつ訪れてみると、立派な橋上駅舎がお出迎え。南北どちらの出口も真新しい駅前広場が整備されているが、駅のすぐ目の前の通りがクルマ1台も通れるかどうかという細い道。“地元感”が濃厚な店舗があったりして、そのあたりは典型的な私鉄沿線の町並みといっていい。
最初に北口に出たので少し近くに東急ストアがあってあっけにとられたが、南側の駅前には西友があってひと安心。西武沿線はやはりこうでなくてはならぬ。