なぜ喫煙所のあるシェルターに戻らないのか?
現場に出た人間なら、装備の着脱でかなり疲労をすることが理解できるだろう。作業の合間、5~10分程度、椅子に腰掛け、タバコを一服したい。そのためにわざわざシェルターに戻るのは効率が悪すぎる。工程表を実現するというなら、この程度の不正は見逃していい。それに7月、8月の放射線量は事故当時の3月、4月、5月の3カ月と比較してかなり低かった。ただ、以前から構内でタバコを吸っていた作業員は、内部被曝を測定するホールボディの結果が高く、途中、上会社の2人が待機となっている。
当月の線量が低く、さほどの汚染がないだろうことは、全面マスクの扱いをみるとわかりやすい。全面マスクはJヴィレッジでピックアップし、それを装着してシェルター行きのバスから降りる。マスクはそのままシェルターの中に持参し、再びその同じマスクを装着して現場に出る。休憩を挟み2度の作業をしなければならない時でも、マスクは交換しない。スクリーニングの結果、問題ない値と判断されるからだ。
ついでに、現場から戻った作業員の手順を紹介したい。
作業員はまずヘルメットをプレハブ小屋に戻し、係員の指示に従ってひとつ目の扉を開ける。安全靴を脱ぎ、1枚目のゴム手、継ぎ目を塞いだテープを外し、タイベックを脱ぎ捨て、次の扉が開くと、ようやく全面マスクを外せる。マスクは透明のビニール袋にしまわれ、帽子や綿手、1枚目の軍足を捨て、肌着になったあと、ビニール袋に入ったマスクを持って検査員の前に立つ。常時4人ほどの検査員がいて、それぞれの前に並んだ作業員を一人ずつ、頭の先から足の裏まで表面汚染を計り、最後にマスクの汚染をチェックする。
マスクは現場作業中、常に外気に触れている。もっとも汚染するのはマスクだ。が、勤務初日から解雇されるまで、全面マスクが作業途中で交換されたことは一度もなかった。表面汚染の結果も多くて200前後にとどまり、IAEA(国際原子力機関)の除染の目安は10万カウントだから、まったく汚染していないと言っていい。
ちなみに東芝系列での全面マスクの交換基準は、「1 内面が除染後、LTD(スミア)を超える場合は面体を交換する。2 チャコールフィルター 10kcpm(直接サーベイ)を超える場合は、フィルター交換する。(但しJヴィレッジまでの移動用として使用する場合は50kcpmまで使用可)」(原文ママ)で、それを印刷した紙は、作業員をサーベイするエリアに貼り出してあった。あれだけ現場で作業し、マスクの表面を拭いたわけでもないのに、毎度、この基準を遥かに下回る数値しか出ない。5~10分休憩をして、タバコを吸うためだけに、バスに乗ってシェルターに戻るのは合理的ではないだろう。